寝入ってしまった十朱から陰茎を引き抜くと、白液が零れてきた。
それが布団を濡らす事には構わずに、隣に寝転び、僕は十朱を抱き寄せた。
「まさかこんな不憫な状態になってるとはね」
ポツリと呟きながら、僕は愛しい十朱の黒髪を撫でる。艶やかで、触り心地が良い。涙の痕が残っている頬を指で撫で、僕は口づけた。それから寝転び天井を見上げる。
「僕はもう、十朱くんに守ってもらわなくても大丈夫というか――逆に恩返し的に、守ってあげないとなぁ」
無意識にそう呟いてから、僕は脱ぎ捨てた服に片手を伸ばしてスマホを取り出した。
そして弟の葵に連絡してみる。
『どーしたの?』
「あのさぁ、登藤って奴、知ってる?」
僕の優秀な弟は、大体なんでも知っているので、僕は笑みさえ浮かべながら訊いてしまった。
『ああ。月芝亭にお金貸してるんでしょ? 悪い噂も絶えない、悪い意味での地元の名士の家系の』
「そうそう、多分それ」
『その登藤さんがどうかしたの?』
「潰せる?」
『――操兄ちゃんがそういう事言うの、珍しいね』
「うん。ちょっとイラっとしちゃってさ」
『俺、そういうの大好き。任せて! 優秀な片腕たる、この俺に。それに俺、ああいうタイプを泣かせるの大好きなんだよね。色々な意味で』
一気に葵の声が明るく変わった。僕の笑顔も深くなる。
「それとさぁ、ちょっと考えてみたんだけどね」
『うん?』
「コスパと量だけじゃ、この先不安だって言うのは、父さん達ともよく話すよね?」
『そーだねぇ』
「そういう意味合いで、月芝亭の味はさ、コスパ最悪の量も極少だけど、最高でさぁ、ちょっと考えたんだけど――平楽屋の全国展開開始の頃、コラボするのどうかなぁ」
『お。操兄ちゃんのこれまでの企画、全部当たってるし、アリなんじゃない?』
「お兄様の実力を見よ!」
『だけど、うちとはスタンスが違いすぎる月芝亭の事、どうやって口説くの?』
「うーん、どうしようかなぁ。僕、既に十朱くんには口説き落とされちゃってるから、自信無いなぁ」
『え? 上手くいったの? 恋、実っちゃった感じ?』
「勿論。僕、過去に欲しいと思って、手に入れられなかったもの、ゼロだし」
『だよね。だから俺は、一生右腕としてついていくと決めてるし、操兄ちゃんこそが、グループ代表の素質の持ち主としか言えないよ』
「もっと褒めてくれて良いよ。じゃあ切るね。提携後の企画管理と、あとは繰り返すけど、登藤の事だけは、宜しくね」
『うん。任せて! ズタボロにしておくから!』
こうして僕は、色々と優秀な弟に任せつつ、通話を終えた。
というのも、隣で、十朱が身じろぎしたから、起こしては悪いと思った結果だ。
スマホを置いて、僕は今度は両腕で十朱を抱きしめる。
すると再び寝息が聞こえ始めたので、僕は彼の額に口づけを落としてから、自分も少し微睡む事に決めた。
「ん……」
次に僕が目を開けたのは、腕から抜け出す気配を察知した時だ。大層寝起きが悪い僕ではあるが、それ以上にもっと十朱と一緒にいたかったので、両腕に力を込めて、それを封じる。
「おはよ、十朱くん」
「あ……起こしたか?」
「うん。起こされた。僕はまだ眠いので、動かないで下さい」
「っ、あ、その……昨日は、俺……抱いてくれなんて、酷い頼みを……」
薄っすらと目を開けた僕は、赤面している十朱を視界に捉え、覚醒した。
「酷い頼み? 僕にとっては僥倖でしか、なかったけどね」
「だ、だって……男を抱けると言っても、別にお前は、俺を好きなわけじゃ――」
「好きじゃなかったら抱かないよ。十朱くんは、好きじゃない相手にも抱かれるから、そういう事言うの?」
「っ……良いんだ。良い思い出になったから。もうこれで悔いは無い。有難う、操」
「何一つ良くないよ。十朱くん。僕は、十朱くんが僕以外に抱かれるとか許しませんけど」
「……お前は優しいな」
何も分かっていないのか、僕の気持ちが伝わっていないのか、十朱は切ない表情で笑っている。全く、溜息が出てしまう。嘆息しつつ、スマホを片手で手繰り寄せ、僕は葵からのトークアプリのメッセージを取り急ぎ確認した。
『制裁は、成功です』
そこには、チャーシューのように紐で縛られた、登藤をハメ撮りしている笑顔の葵の画像があった。さすがは我が弟、やる事が早い。
「十朱くん。登藤の事だけど、もう大丈夫だから」
「え?」
「銀行への返済も、肩代わりのあてが出来てる」
「どういう意味だ?」
「――平楽屋と月芝亭の良い所が重なったら、最高だと思わない?」
「?」
「早い、安い、美味い」
「そ、それは理想だろうけどな……?」
「というわけで、三茶グループと提携しない? 企画協力金、先にお支払いするので、それで銀行には返済すれば良いよ」
「え?」
虚を突かれたように、十朱が目を丸くしている。本当に愛らしくて困るし、男前の純粋な顔というのは、汚したくなってしまうのも困る部分だ。
「これから、公私ともに忙しくなるから、覚悟してね」
「公私?」
「仕事においては、究極の蕎麦について僕と探求。私的には、僕の恋人として――ちょっとマグロは好みじゃないから、開発させてもらおっかなぁって」
「こ、恋……な、なんて?」
「僕の事が好きって、嘘だったの? 十朱くん、僕を弄んだの?」
「い、いや……俺は、本当に好きだけど……気持ち悪くないのか?」
「何が? もう可愛くて愛しくて、俺死にそう。愛してるよ、十朱くん」
ギュウギュウと僕が抱きしめると、十朱が真っ赤になった。それがまた愛おしい。
こうして僕達は、恋人同士として、新しい朝を迎えたのだった。
「ね、十朱くん」
「な、なんだ?」
「――もう一回、シたい」
「!」
「嫌?」
僕が問うと、真っ赤になった後、瞳を潤ませてから十朱が小声で答えた。
「……嫌じゃない」
この日、僕らは散々交わった。日曜日で助かった。本日の月芝亭は、臨時休業となった。僕は生真面目に仕事に行こうとした十朱を布団に縫い付けて、何度も何度もその体を暴き、僕という存在を刻み込む。快楽と、愛を、叩き込む。もう、僕は絶対に十朱を逃がさないし、幼き日とは逆に、今後はずっと、僕が守ると決めていた。