目が合ったのにサラリーマンはやめることなく、電車の揺れを利用して私のおしりを撫でてくる。


これが痴漢と言っていいものなのかわからないけど、なんとも言えない気持ち悪さで吐き気がしてくる。


及川くんともう少し一緒にいたかったけど、次の駅で降りようかな…。



そう考えていた時だった。



「花村、こっち」



及川くんが私の腰に手を添えると、グイッと向きを変えてくれて扉が後ろになるように立ち位置を交換してくれた。


さっきまで私の後ろにいたサラリーマンは気まずそうに目を逸らすと、手持ち無沙汰になった片手で吊り革を掴んだ。



「…悪い、気がつかなくて」


「いやいや…!ありがとう…」



こそっと耳打ちをしてきた及川くんに、赤くなっているであろう顔を伏せながら必死に首を横に振る。


…ほらね。やっぱり及川くんは今も昔も優しい人なんだ。