「……あ……」
莉乃が目にしていたものの先は、僕が捨てた薬の瓶だった。
「……もしかして嫌なことあった……?」
僕は、重たい口を開いた。
「……会社から、戻ってこないかって、……メール来た」
莉乃は片づけている手をぴたりと止め、こちらを心配するように見た。
「それで気持ち悪くなっちゃって吐いたの?」
「……」
「今の話聞くと、それ以外ないよね。薬、飲んでないんだよね?中身入ったまま捨ててあるし」
莉乃は僕の汚物をビニール袋に入れて縛って、消毒スプレーを吐いた場所にかけていた。
手際の良さに、慣れを感じた。
あっという間に片付け終わって、手を洗っていた。
きっと僕が知らないだけで、吐いて片づけることなんて日常なのだろうか。
「飲んでない」
そう断言するとタオルで手を拭き僕に近づいてきた。
「えらかったね」
そう言って、僕をそっと抱きしめた。
背中をトントンと軽くたたきながら僕に微笑みかける莉乃。
「うがいしてないでしょ、落ち着いてからでいいからうがいしな?」
「ごめん、何からなにまで」
「いいんだよ、とどまってくれたことがうれしい」
「それは、莉乃を思い出したから、……莉乃のこと一人にはできない」
「うれしいな。そうやって思ってくれるんだ」
「それだけ、僕の中心に莉乃がいるんだ」
「栄佑くんの支えになれてるなら、19年生きてきてよかったなって思うよ」
「そんな今死ぬみたいに」
「死ぬんだよ、私は。きっともうそこまで天使が迎えに来てる」
「ッ……僕はッ……、莉乃がいなくなったらッ……どうすれば……」
「那奈のこと」
「……え……?」
「那奈のこと、お願いね」
「何で二見さんが今出てくるんだよ……」
「私の唯一の友達なの、親友なの、私と出会う前の栄佑くんと同じだと思う那奈」
僕と同じ……。
「それは現実逃避してた頃の僕と同じってことか……?」
「心配性で、何かあると耐えられないの。薬に頼ってたこともあるって聞いたことある」
まったく、僕と同じ。
心が弱いから。
耐えられず薬を飲んで現実逃避。
さっきは留まれたけど、莉乃がいなかったら……。
誰でも察しが付くだろう。
きっと今頃気を失っていたか、ふらふらとしながら回る視界にまた吐いていただろうな。



