入り江の洞窟は、龍神島内の大きな屋敷へと繋がっていた。

 誰もいないと思っていた龍神島に立派な住居があることが驚きだ。

 陽葉が案内されたのは屋敷の奥の間。襖の戸に手をかけた紅牙が、それを引く前に振り返る。

「部屋に入ったら、花嫁の席でしばらく待っていろ。すぐに白玖斗(はくと)がやってくる」
「……はい」

 これから陽葉は、この島の龍神の花嫁になる。嫁ぐ相手の名は白玖斗というようだ。

 緊張で顔をこわばらせる陽葉を、紅牙がククッと揶揄う。

「そんなに硬くなるな。覇気は怖いが、白玖斗は花嫁をとって食いはしない」

 覇気が怖いとは……?

 鬼のような恐ろしい大男だったらどうしよう。

 想像に肩を震わせていると、紅牙の手が陽葉の頬に触れた。

「心配するな。もしあいつに気に入られなければ、儀式のあとで俺がもらい受けてやるから」
「はい……?」

 ニヤリと不敵に笑むと、紅牙が身を翻してダンッと乱暴に襖を開けた。

「どうぞ、我らが花嫁様」

 背を押されて部屋に入った陽葉は、床の間の前に用意された席に座った。

 刺すような視線を感じて顔をあげると、陽葉の向かいに二人の男が正座していた。

 ひとりは濃紺の着物に背中までかかるほどの灰青の長髪で、もうひとりは勝色の着物にやわらかそうな亜麻色の髪。どちらもおそろしいくらいに美形で、額にツノが生えている。

 そのふたりが、陽葉の顔を見た瞬間、大きく目を見張った。

天音(あまね)――?」

 ふたりが同時に呼んだのは、紅牙が陽葉の顔を見て呼んだのと同じ名前。

「やっぱりそっくりだよなあ。こんなによく似た花嫁をどうやって見つけたんだ? 黄怜(きれん)

 紅牙がからりと笑って、亜麻色の髪の男に視線を向ける。

 黄怜と呼ばれた男の顔にはまだ少年の名残のような幼さがあり、陽葉よりも年下に見える。そんな彼が、煩わしげに碧色(みどりいろ)の目を眇めた。

「知らないよ。僕が選んだのは()()じゃない」

 黄怜がむっとした表情でつぶやく。その言葉に、陽葉はヒヤリとした。

『選ばれていないおまえが行けば、龍神様の怒りを買うかもしれない』

 村を出るときの大巫女の忠告が耳に蘇ったのだ。

 見た目は美形の男たちだが、彼らは悪神として知られる五頭龍。騙していたことがバレれば、突然暴れ出すかもしれない。

(どうか、このままやり過ごせますように……)

 膝の上で震える手をぎゅっと握る。そのとき、カタンと座敷の襖が開く音がした。