泣かないように奥歯にぐっと力を入れる。そんな陽葉を白玖斗が呆れ顔で見下ろしてきた。

「興味がないと、俺が言ったか?」
「言われなくてもわかります。出会った日から、あなたは私とまともに目も合わそうとしない」

 涙ぐむ陽葉を困り顔で見つめ、白玖斗がため息を吐く。

「なぜ泣く? 誰かに余計なことでも吹き込まれたか?」
「いえ、なにも。けれど、あなたが無能な私を人里に送り返すか、そうでなければ蒼樹さんか紅牙さんの元に押し付けようとしていたことはわかっています」
「なぜそう思う?」
「歴代の花嫁が、そういう扱いをされていたと聞いたからです。白玖斗さんは、天音以外の花嫁には興味がないと」

 陽葉の話に、白玖斗は眉根を寄せてまたため息を吐いた。

「なるほど。たしかに興味がなかったな。陽葉が来るまでの花嫁には」

 意味ありげな白玖斗の言葉に、単純にも陽葉の胸はざわつく。

「初めて会ったときから陽葉のことは特別に思っていた。霊力などなくても、魂でわかる。だが、おまえは何も知らずに身代わりとしてここへ来ただろう。ほんとうなら、今世では俺たちとは関わりなく生きていくことができたはず。もしかしたらそれを望んでいたから、霊力を持たずに生まれてきたのかもしれない。それなのに俺が不用意にそばにおけば、おまえが人里に帰る選択をしたときに心を惑わせることになる。知っているだろう? 五頭龍に心を囚われた人間は、島から出られない」

 白玖斗の言葉は、まるで陽葉が彼に心を奪われることがわかっているような言い方だ。

「俺はずっとおまえを愛しているから、おまえの望むように今世を生かしてやりたい。それで、おまえが自ら俺を選ぶまではと、触れないように我慢していた。だが、もうそれも必要ないようだ」

 ふっと笑うと、白玖斗が手のひらをあてて陽葉の目を覆う。

「な、に……」

 暗くなった視界に怯えていると、ふいに遠くから誰かの声が聞こえてきた。

『白玖斗様、どうか今世では陽葉のままの私を愛してください』

 そう願うのは、天音の声。

『もちろん、陽葉が俺を選べばな』

 白玖斗の声が、優しく答える。

 交わされる会話は、陽葉が意識を閉じようとしたときに白玖斗と天音の間で為されたものだ。