「志津姉、無事に生きていたのね」
「まさか……、陽葉? あなたが新しい花嫁だったの……?」
「実は私は他の子の身代わりできたの。だから霊力がなくて役に立たなくて……。このままここに残るか、帰るかを朔の日までに決めなければいけないんだけど、今は黄怜さんのところにお世話に――」
「ちょっと待って、陽葉」

 知った顔に会ったことにほっとして一気に話すと、志津が慌てて陽葉の口を押さえた。

「新入り、志津様と知り合い?」
「あの子は本物の花嫁の身代わり……?」
「霊力のない無能……?」

 あやかし三人組が、こちらを不審な目で見ながらキイキイ言っている。なんとなくよくない雰囲気を察して、陽葉はこくこくと首を縦に振った。

「あなたたち、ここはもういいから下がりなさい」

 志津が落ち着いた口調で命令すると、あやかし三人組はお互いに顔を見合わせせながら、ぞろぞろと台所の外に出た。

 三人組が下がったのを確認してから、志津が台所の戸を閉める。

「ここで迂闊に自分のことを話してはだめよ。邸宅にいる使用人あやかしも元花嫁たちも、それぞれの仕える五頭龍に通じていると思ったほうがいい」

 志津に咎められ、陽葉は小さくうなずいた。

「でもまさか、志津姉にまた会えるとは思わなかった。人里には帰らず、蒼樹さんのところに残っていたのね。それに、志津姉、昔と少しも変わってない」

 十年ぶりに会うというのに、志津は陽葉の記憶にある十七歳のときの姿のままだ。

「そうね。ここは人の世と時間の流れが違うから……それで、陽葉はもう決めたの? 人里に帰るかどうか」

 志津が陽葉の目をまっすぐに見つめてくる。その問いかけに「はい」と答えようとして、陽葉の心に一瞬の迷いが生じた。

 自分は身代わりの無能な花嫁だ。蒼樹や紅牙に受け入れられても、他の元花嫁たちには受け入れられない。だから、人里に帰るべきだと思っていた。

 でも、帰ったとしてどうだろう。

 大巫女や『天女の郷』の子どもたちは、龍神島から戻った陽葉を好意的に迎えてくれるだろうか。

 一緒になる約束をした喜一だってもういない。

 それに、今の陽葉の心には……。

「志津姉がいるなら、私もここに残ろうかな……」

 白玖斗の顔を思い浮かべながら陽葉がつぶやくと、志津の瞳が鋭くなった。

「馬鹿なことを言わないで。あなたは人里には帰りなさい!」

 いきなりきつい声で叱責されて、陽葉はビクリと肩を揺らす。