陽葉が白玖斗と言葉を交わしたのは、龍神島に連れてこられた夜だけ。
それ以降も、菫色の着流し姿でふらりとどこかへ歩いて行くところを見かけるが、白玖斗は陽葉に目もくれない。それなのに、陽葉のほうは、白玖斗の気配を感じるだけで胸がドキドキと鳴った。
初めて会ったときからそうだった。白玖斗を見るだけで、激しい胸の高鳴りと呼吸機能の異変を感じる。
自分に好意を向けてくる蒼樹や紅牙、中立的な態度で接してくれる黄怜といるときは自然にしていられるのに。白玖斗のそばでは、自分が自分でいられなくなるような。そんな心地がする。
恋のときめきにも似ているような気もするが、元恋人の喜一にはこんな感情を抱いたことがない。まるで魂から引き寄せられるような感覚にさせられるのは、白玖斗が初めてだ。
気怠げな立ち姿さえ美しい白玖斗の横顔をじっと見つめていると、ふいに目が合う。だが、その喜びに浸る間もなく視線がそれた。
どこかに向かって歩き出した白玖斗が、ふと何か思い出したように振り返った。
「紅牙、そういえば、南の邸宅の女たちがおまえのことを探していたぞ」
「はあ? なんで」
「おまえが最近、南の邸宅をほったらかしだからだろう。目を離すとすぐに消えてしまうと絢子が愚痴っていた」
「ああ……」
額に手をあてた紅牙が、面倒くさそうに顔をしかめる。そこへ、白玖斗が追い討ちをかけるようにクツリと笑った。
「居場所に検討がないかと聞かれたので応えておいだぞ。おそらく西の邸宅だろうと。まもなく、他の娘を何人か引き連れて探しにくるだろう」
「いやいや。何余計なことしてんだよ、白玖斗」
「早く止めに行かないと、また厄介なことになるんじゃない?」
含みのある黄怜の言葉に、紅牙が小さく舌打ちをする。
絢子を筆頭とする南の邸宅の女たちは、紅牙が陽葉にかまいすぎだとやっかんでいるのだ。
それ以降も、菫色の着流し姿でふらりとどこかへ歩いて行くところを見かけるが、白玖斗は陽葉に目もくれない。それなのに、陽葉のほうは、白玖斗の気配を感じるだけで胸がドキドキと鳴った。
初めて会ったときからそうだった。白玖斗を見るだけで、激しい胸の高鳴りと呼吸機能の異変を感じる。
自分に好意を向けてくる蒼樹や紅牙、中立的な態度で接してくれる黄怜といるときは自然にしていられるのに。白玖斗のそばでは、自分が自分でいられなくなるような。そんな心地がする。
恋のときめきにも似ているような気もするが、元恋人の喜一にはこんな感情を抱いたことがない。まるで魂から引き寄せられるような感覚にさせられるのは、白玖斗が初めてだ。
気怠げな立ち姿さえ美しい白玖斗の横顔をじっと見つめていると、ふいに目が合う。だが、その喜びに浸る間もなく視線がそれた。
どこかに向かって歩き出した白玖斗が、ふと何か思い出したように振り返った。
「紅牙、そういえば、南の邸宅の女たちがおまえのことを探していたぞ」
「はあ? なんで」
「おまえが最近、南の邸宅をほったらかしだからだろう。目を離すとすぐに消えてしまうと絢子が愚痴っていた」
「ああ……」
額に手をあてた紅牙が、面倒くさそうに顔をしかめる。そこへ、白玖斗が追い討ちをかけるようにクツリと笑った。
「居場所に検討がないかと聞かれたので応えておいだぞ。おそらく西の邸宅だろうと。まもなく、他の娘を何人か引き連れて探しにくるだろう」
「いやいや。何余計なことしてんだよ、白玖斗」
「早く止めに行かないと、また厄介なことになるんじゃない?」
含みのある黄怜の言葉に、紅牙が小さく舌打ちをする。
絢子を筆頭とする南の邸宅の女たちは、紅牙が陽葉にかまいすぎだとやっかんでいるのだ。



