蒼樹から聞かされた話に、陽葉は目を瞬いた。

 これまでの花嫁は悲しい最期を遂げたとばかり思っていたが、そうではなかったのだ。

「と、いうわけですが、陽葉さんはどうされたいですか。選択権は貴女にあります。欲を言わせてもらうと、貴女が私の東の邸宅に来てくださればとても嬉しいですが」

 蒼樹が陽葉の手をとって、甘やかに微笑む。その流れで陽葉の手に口付けようとするのを、紅牙が割って入って止めた。

「さりげなく誘惑するんじゃねえ。陽葉は俺がもらいうけるんだよ!」
「だから、それは陽葉さんが決めるんですよ」

 紅牙が陽葉を引き寄せようと肩に手をかけると、蒼樹も笑顔で陽葉の手を離すまいとぎゅっとつかむ。

 両方とも、ものすごいバカ力だ。

「い、痛い……」
「離してあげたらどうですか、紅牙。痛がってますよ」
「おまえが離せ。これまで何人もの花嫁をおまえに奪われたんだ。陽葉は絶対に渡さねえ」

 小さく悲鳴をあげた陽葉を挟んで、蒼樹と紅牙が互いを牽制して睨み合う。

「あまりしつこいと嫌われますよ」
「それはおまえもだろう、蒼樹。今回ばかりは俺に譲れ」
「なぜそこまで陽葉さんに執着するんです?」
「なぜって、わかってるだろう。ただ、ひとつ言うなら……、顔が好みだ」
「生憎ですが、私もです」

 ギリリと奥歯を噛む紅牙に、蒼樹がしたたかな笑顔を見せる。

 ふたりの龍神に奪い合われるような奇妙な状況に、陽葉はただおろおろするばかり。

 無能で役に立たないはずの自分が、なぜこのようなことになっているのか。

「陽葉、俺のもとに残ると言え」
「無理に紅牙の言うことを聞くことはありませんよ、陽葉さん。冷静によく考えて、私のもとに来ませんか」
「あ、あの……、私……」

 紅牙の命令口調も、蒼樹のウソくさい笑顔も怖い。

 追い詰められた陽葉が顔をひきつらせていると、突然、脇からグイッと上に引き上げられた。

 ふわっと浮いた身体が、気付けば蒼樹と紅牙から離れた場所に着地する。

「やめなよ、怖がってる」

 何が起きたかわからずぽかんとしている陽葉の後ろから、ため息が聞こえた。

「何すんだよ、黄怜」
「そうですよ」
「ふたりこそ、いつまで見苦しい争いを続けるつもり? どちらかのところに行く以外に、人里に帰る選択もあるよね。身代わりで送られてきたこの子は、本来島とは無関係。次の朔の夜に帰らせるべきだよ。それまでは、とりあえず僕が預かる」

 黄怜の言葉に、蒼樹と紅牙がそれぞれ不服そうに顔を歪めた。