「……申し訳ありません」

 震える声で謝ると、黄怜がすっと近寄ってきて膝をつく。そうして陽葉の顎に爪の長い人差し指をあてると、グイッと持ち上げた。

「謝罪はいらない。それよりも、なぜ花嫁が入れ替わったのか説明してくれない?」

 男性にしてはトーンの高い、けれどあきらかに不機嫌な声で黄怜が訊ねてくる。少年のような幼い顔をしていても、目力の威圧感はとてつもない。

「も、申し訳ありません……選ばれた花嫁には想い人がいたのです。その想い人と姿を消してしまったため、私が身代わりに……」

 震えながら説明すると、黄怜が呆れ顔で息を吐いて陽葉の顎にかけた指を離した。

「顔だけでなく、お人よしなところもそっくりとはね」

 嘲るような黄怜の言葉に、陽葉はそっと目を伏せた。

 比べられているのは、やはり天音(あまね)だろうか。けれど、陽葉はべつにお人よしなわけではない。

 身代わりになったのも、信頼していた和乃と喜一に裏切られて自棄を起こしただけのことだ。

「事情はわかりました。しかし、霊力のない花嫁というのは困りますね。黄怜、すぐに次の朔の夜に呼び寄せる花嫁の候補を見繕えますか?」
「どうかな。霊力のある花嫁はそう何人も現れない。だかは霊受けの儀は十年に一度で行うんだよ。でも、まあ、探してはみる。白玖斗だって、もうあまり余裕がないでしょう」

 黄怜がうんざりとした顔でため息を吐く。

「よろしくお願いします。それで、彼女はどうしましょうか」

 黒、蒼、碧の双眸が、それぞれの思惑を持って陽葉に向けられる。三人の美貌の男に見つめられて、緊張と不安で陽葉の顔がこわばった。

(私は身代わりの花嫁。無能な私は、ここでも必要とされない――)

 当然だ。可愛がってきた和乃や恋人だった喜一にすら捨てられたのだ。そんな自分が、誰かに求められるはずもない。

 身代わりの花嫁にすらなれない自分は、どうなってしまうのか。

 絶望してうつむいたとき、たんっと飛び跳ねて近付いてきた紅牙が陽葉の肩を抱いた。

「そんな落ち込んだ顔をするな、陽葉。言っただろ、白玖斗が気に入らなければ俺がもらい受けてやるって。おまえのことは俺が面倒を見てやるよ」
「え……?」
「ついてきな。南の邸宅に案内しよう」

 紅牙がニヤリと不敵に笑う。

 一瞬ドキッとした陽葉を、紅牙が軽々と抱き上げた。

「は、え……? なに……?」
「俺の屋敷は島の中でも一番明るくてあたたかいぞ。庭もあるからきっと気に入る」

 紅牙が鼻歌を唄うように話しながら、陽葉を座敷の外に連れ去ろうとする。だが、風のような速さで進み出てきた蒼樹がそれを許さなかった。