「さて、どうしましょうか。ねえ?」

 白玖斗が去ると、灰青の髪の男が腕組みをして首をかしげた。眉を下げて困ったような表情を浮かべながらも、その声には、この状況を楽しんでいるような響きが含まれている。

「どうしましょうって言ってもなあ。白玖斗が花嫁に見向きもしないのはいつものことだが、霊受(たまうけ)すらしなかったのは初めてだ。なあ、蒼樹。この子には本当に霊力がないのか?」

 ため息混じりに額に手を置く紅牙に、蒼樹と呼ばれた灰蒼の髪の男が「そのようですね」と肩をすくめた。

「なんでだよ。こんなに天音に似てるのにか? 白玖斗(はくと)だって、ほんの一瞬見違えただろう」
「そのようですね。無理もありません。私も一瞬見違えました。ねえ、黄怜」

 正座でうつむく陽葉の顔をじっくりと値踏みしてから、蒼樹が亜麻色の髪の男を振り返る。

「似ていたとしても別人だよ。鈍い紅牙にはわからないかもしれないけど、()()は何の役にも立たない。花嫁の衣を着た無能な人間。紅牙、どこで()()を拾ってきたの?」

 顎でしゃくりながら、陽葉を()()呼ばわりする黄怜の目はかなり不快そうだ。

 童顔で可愛らしい顔をしているくせに、吐き出される言葉は容赦なく陽葉を攻撃してくる。

「どこって、入り江の洞窟に決まってるだろ。花嫁が送られてくる場所はそこしかない」

 紅牙の話に「ふーん」と、黄怜が相槌を打つ。

「それなら、手違いで偽物が送られてきたのかな」
「はあ? 偽物?」

 怪訝に訊ねる紅牙に、「そうだよ」と黄怜が冷笑を返した。

 どうしてか、黄怜は陽葉が正式な花嫁でないことを見抜いているらしい。翠玉(すいぎょく)の瞳で真っ直ぐに見つめられて、陽葉の心臓がドク、ドクと暴れた。

「僕の目が無能な花嫁を選ぶと思う? 腕を確かめてみて。ないはずだよ、花嫁の証の天女花(てんにょばな)
「ちょっと見せてみろ」

 紅牙が陽葉の左手を乱暴につかむ。着物の袖を捲り上げられた場所には、とうぜん天女花の痣があるはずもなく。
 陽葉は暴かれた左手首を右手で庇ってうつむいた。