「おまえに霊力がないのはなぜだ?」

 白玖斗の低い声に、陽葉はそろりと目を開ける。

 鼻先が触れ合うほどに接近した白玖斗の瞳は冷たく、そこには甘さの欠片もない。

 陽葉には白玖斗の質問の意図がわからなかった。

 霊力とは……。

 ひとつだけわかるのは、白玖斗が陽葉を歓迎しているわけではないということ。

「わ、私は……」

 唇を震わせる陽葉を、鋭いまなざしが突き刺してくる。

 しばらく陽葉を無言で見つめたあと、白玖斗はすっと身を引いて音もなく立ち上がった。

「今夜の霊受(たまうけ)の儀は中止だ。この娘を人里に送り返すか、ここに残るか、次の朔までに決めさせろ」

 座敷に控える三人の男に命じると、白玖斗が立ち去ろうとする。

 歓迎されていないどころか、白玖斗は陽葉に目もくれない。

 白玖斗の冷たい態度に、陽葉の胸がずくんと鈍く痛んだ。

 初めて出会った、人ですらない存在。その男からの拒絶が、陽葉に胸を切り裂かれるような痛みを与える。

(行かないで――)

 意志とは無関係に、陽葉の魂が離れていく白玖斗の背を追いかけようとする。手を伸ばせば届くぎりぎりのところで、陽葉はたまらず白玖斗の着流しの裾を掴んだ。

 クイっと後ろに引かれた白玖斗が、おもむろに視線を落とす。

「名は?」

 白玖斗は、唇を固く結んで泣きそうに見上げる陽葉を無表情で見つめると、さほど興味のなさそうな声で問いかけてきた。

「――陽葉です」

 掠れた声で応える陽葉を見下ろす白玖斗が、金の瞳をわずかに細める。

「手を離せ」

 白玖斗の無情な声が、陽葉の心を完膚なきまでに引き裂く。着物を握る陽葉の手から、するりと力が抜けた。