私は、彼に頭を下げて、歩き出す。

「ちょッ、待って!」

彼は、あわてたように私の手首を掴む。

「へッ」

思わず、変な声を出してしまった。

「あ、俺、のこと、覚えて、ない?」

「え」

またもや、変な声をあげてしまった。

「いや、なんでもない」

水川くんは、掴んだ手首を離して、どこかに言って行ってしまった。

『俺、のこと、覚えて、ない?』

覚えてないも、なにも、会ったことないよね?

「なんなんだろ?」

会ったはずがない。

たぶん。

あまり、記憶力はいい方ではない。

モヤモヤしたまま、家につく。

「遅いわよ!何してたの!」

玄関のドアを開けると、家の中から大きな怒声が飛んでくる。