無意識に名前を呼んでしまう。
すると、背を向けていた狼が振り返り、三度唸るように息を吐きながら、瞬きをして顔が俯くと、涙が流れたように見えた。
くぅん…。
一度だけ、弱々しく鳴き、すぐにその声が遠吠えに変わると、他の狼たちを引き連れるように、先頭を切ってまた背を向けて駆け出した。
私を食べようとしていた狼たちも、リーダーに従うように後を付いていく。
…私、旦那様に助けられたみたい。
あの数分間に、何が起きたんだろうというくらい、辺りは静かで遠吠えも聞こえない。
私の草を踏む音だけが聞こえてくる。
「旦那様…。どうが、ご無事で帰ってきて」