なんて甘い考えは通るわけもなく、名前を呼ぶと目を大きく開き、天を仰いで遠吠えをした後、私に向かって走って来た。




もう終わりだ。

反射的に抵抗して自分の身を守ろうと、一歩下がった時。



草に足を取られバランスを崩してその場に倒れ込むと、私に飛びつくことなく、その横を通り過ぎて森の奥深くへ消えた。



まだ近くで遠吠えが聞こえる。しかも何匹も。





「怖かった…」



踏ん張っていた足を見ると、小刻みに震えている。


好きだと分かった相手が獣で、その人に食べられる運命って…。幸せとは言えない。



自分の命を捧げられるほどまだ強くないし、半世紀も生きていないのに。