私には、友達がいなかった。
人間は、私と話してくれなかった。
だから、あの子と友達になろうとした。
あの子からしたら、私は星の数ほどいる人間の一人で、友達なんて言うのはおこがましいのかもしれないけれど、私はあの子が大好きで、あの子も私を視ていた。

生まれたときから、私は他人とは違った。
すぐに言葉を覚えた、九九を覚えた。
何でもできた。
運動もできたし、勉強もできた。
そこまでは、ただの優秀な子だった。
異性ではなく、同性を好きになった。
親は、私を見れなくなった。

完璧ではない私を、愛せなくなった。

私は、人と関われなくなった。

私は、親を愛せなくなった。

親は、私の良いところばかりを見て、私の欠点を見てくれない。
私を、完璧な人間だと思っている。
優しくて、才色兼備で、眉目秀麗な理想の娘だと思っている。
完璧な、球体のようだと思っている。

そんなもの、あるわけないのに。
そんな私が、人と関われないのは、親を愛せないのは、自然なことだと思う。

だから、私は、あの子が好きだ。
私をただの一人の人間として、少女として、見てくれるから。
あの子は、あの子だけは、あの子なら、あの子だったら。
私と友達になってくれるかもしれない。
そう思って、私はあの子に近づいた。

あの子は、私のことをどう思っているのだろうか。
私には、皆目検討もつかない。
私には、あの子の考えていることがわからない。
ただ、あの子が、私のことを好意的に想ってくれていたら嬉しい。
きっと、そうだと信じてる。

そんなことでいい、それだけでいい、それでいい、それがいい。
私をそんなふうに想ってくれる人は、きっと世界に一人もいないから。

最初にあの子を見つけたとき、不思議だと思った。
私を視ているのに、見ていない。
どうしてだろうと、しばらく立ち止まっていた。
すぐに気づいた。
あの子は、目が見えないのだ。
だけれど、あの子は私をまっすぐ視てくれていた。
私の心に直接、訴えかけてきた。
私は、あの子の視線に、答えたい。

次に見つけたとき、あの子は雨の中でじっとこちらを視ていた。
すぐに、私は母親の元へ駆け寄った。
あの子のことを話すと、すぐに反対された。
でも、説得した。

生まれて初めて、親と全力でぶつかった気がする。
これで、私はもっとあの子と近づける。

あの子と行こう、私の意味を探す旅へ。
あの子をそっと抱きかかえると、私はそっと雨の中へ歩き出した。