あ~あ、と思いながら、綺麗にしてもらう俺。だけど俺が思っていたよりも、それはけっこう早く終わったんだ。
 
 新しい世界では、綺麗にするのも魔法でちゃちゃっとやるらしい。こう汚れた部分をクリーンっていう魔法で綺麗にして、そのあとはお尻がかぶれないように、風魔法で完璧に乾かして。
 後は何かクリームのような物を、柔らかい布でお尻に塗ってもらって。これでお尻がかぶれにくくなるらしい。

 そんな説明を、女の子、確か名前はケニーシャだったっけ? 何とも言えない歌を歌い続けているケニーシャに。ケニーシャのお母さんである、綺麗な女の人のシェリアーナさんがしていた。ついでに、歌は今はいいのよ、とも。

 だが、歌い出したら止まらなくなったのか。俺が泣き止むまで、それからお尻が綺麗になるまで。話しを聞いて頷きながらも、歌を止めることはなかった。苦笑いをするシェリアーナさん。アレは絶対に話しを聞いているようで聞いていないな。

 と、そんなふうに、ささっとお尻を綺麗にしてくれたシェリアーナさん。不快感もなくなり、俺が泣き止んでくると。

『あたしのおうたで、なきやんだ!』

 うん、やっぱり話しは聞いていないな。

『えへへ、あたしおねえちゃん。おねえちゃんだもん、いっぱいおうたうたって、いいこして。いつでもあかちゃんが、わらっているようにしてあげるの!』

 …‥ありがとう、ケニーシャ。それを聞いたシェリアーナさんも、優しい顔をして、ケニーシャの頭を撫でた。

『ゴホンッ』

 その時、誰かの咳払いが。それから。

『ガハハハハハッ!! 今まで真剣な話しをしていたんだがな。赤ん坊のおしっこと、ケニーシャの歌で、部屋の空気が変わったな。それにしてもケニーシャの歌は相変わらずだな』

 ケニーシャの歌を何とも言えないと思っていたのは、俺だけじゃなかったようだ。まぁ、こればかりは、ケニーシャがもっと大きくなれば良くなるだろう。でも何回かケニーシャの歌を聞いているうちに、癖になってきたような?

『話しに戻って良いだろうか?』

『ねぇねぇ、パパ。あたしいっしょに、あかっちゃんとねてい? そしたらないたらすぐに、おうたうたってあげる。それからごはんもあたしがあげる!! だってあたしおねえちゃんだもん!!』

 その言葉にまた静かになる部屋の中。ケニーシャの中では、すでに俺はケニーシャの家族で、そしてお姉ちゃんになっているらしい。良いぞケリーシャ、どんどんアピールしてくれ。ケニーシャと家族になるよう、俺も頑張ってアピールするから。

 何でだろうな。ここまでケニーシャと、シェリアーナさんと家族になりたいと思うなんて。父親が誰かはまだ分からないけど。

『それは君がその家族と、とっても相性が良いってことだよ。こんなに相性が良いなんて、何で僕気づかなかったのかな? そうすれば最初からここに送っていたのに。やっぱり何か僕に起こっているみたいだ』

『……それはお前が、ドジなだけだろう』

『……それよりもアピールだよ。そうすれば君の新しい生活が、ここから始められるかも』

『お前に言われなくてもやるところだ』

 俺は腕を振って、それから足も振って、何とかアピールをする。今の俺に動かせるのはほんのちょっとだし、これもすぐに疲れてできなくなるはず。それでもやらないと。

 俺の動きを見てケニーシャが、俺に合わせて腕を振る。疲れて動かすのを止めると、その間だけケニーシャが1人でアピール。そして復活した俺は、今度はケニーシャの動きを真似して腕を動かしてみる。それを何回か繰り返して。

『あたし、おねえちゃん!!』

『うたー!!』

 今のは一応弟って言ったんだ。

『おうたいっぱい、いいこいいこいっぱい!!』

『おうぅ…、ふにょう!! にょお!!』

 今のは、お歌は別にして、お姉ちゃん頑張れ!! そしてありがとう、っていったんだ。

 そしてこれが最後のアピールになったんだけど、最後の何かよく分からない掛け声と、俺とケニーシャの腕の動きが見事にシンクロして、部屋の中は再び静まり返った。

『あ~、ブレンデン様、話の続きを…』

『もう良い』

『ブレンデン様?』

『今のを見たであろう。ここまで同じ動きと掛け声を聞いてしまったらな。皆の調べでこの人間の子供は帰る場所はなく、そして子供自身には何も問題がないと分かったのだ。ならばシェリアーナの言う通り、人間に、いいやエルフにこの子供を預けるくらいならば、私達で面倒を見ても良かろう。それにここまであっている2人を離すのは無理だろう』

『そうですが、本当によろしいのですか?』

『きっとこれも運命。この子供はキュリス達、いやケニーシャと家族になる運命だったのだろう。幸い我々は魔力に関しても制御できる。キュリス、シェリアーナ』

『はっ!!』

『はい』

『この子供はお前達の子供として育てよ』

『はっ!!』

『喜んで』

『ケニーシャ』

『は~い!』

『弟ができて良かったな。弟を頼むぞ』

『は~い。⚪︎△◻︎*⭐︎~』

 またあの歌を歌い始めるケニーシャ。良かった、俺はここで、ケニーシャとシェリアーナさんと家族になれた。そして。

『これからよろしくな』

 俺達の方へ歩いてきた男の人。最初の頃に見た人だったが、この人の名はキュリスさんで、この人がおそらくシェリアーナの旦那さんで、ケニーシャのお父さんなんだ。そしてこれからの俺の父親でもあって。

 色々あったが、こうして俺は何とか、新しい家族を見つけることができたのだった。最初の最悪な家族と正反対な家族。俺の新しいとても大切な家族。

 俺がここで暮らすと決まって、話し合いは終了し、解散となった。集まっていた面々が俺に挨拶をしてくれながら外へ出て行く。そして最後に俺達家族が。

『色々用意しないと』

『ドタバダしていたから、まだ全然用意できていないわ』

『帰り際、色々買って帰ろう』

 そう話しながら、どんどん進んでいく俺の家族。と、あるドアを抜けると、急に明るいような、ふわふわしているような感じがして。歩いている最中、ほとんどケニーシャとスキンシップをとっていた俺。やっと上を見るとそこには……。

 あたり一面を、水が覆っている光景が目に入ってきたのだった。