大きな男が俺のおでこに手を当ててすぐ、男の手が少しだけ光、俺の体の中に温かい何かが流れ込んできた。でも何だこれは? と思っているとすぐに光は消え、それと同時に体に流れてきていた温かい何かも消え、すぐに男が手を離す。

『大丈夫そうだな。悪いところは見つからない。これなら薬もいらないだろう。後は飯をどんどん食わせてやることだ。子供はたくさんご飯を食べて、どんどん成長するから生き物だからな。まぁ、当分の間、ミルクやティーばかりだろうが』

 大きな男がそう言うと、また大きな別の男が近づいてきて。

『それは人間も同じなのか?』

 そう最初の男に聞いた。そんな話しを続ける男達を見つめる俺。生まれたばかりの赤ん坊のせいで、ほとんど体を動かせず。この世界へ来てからずっと目だけで、何とか様子を伺っているけど、それにもだんだんと慣れてきて。目を少し動かしたくらいじゃ、全然疲れなくなってきた。

 最初は目を少し動かすだけでも、思っていたよりも体力を使っていて。あの最初の最悪家族のもとでも、その疲れからと赤ん坊だからなのか、すぐに眠ることになり、何度そんな事を繰り返したか。挙句海への投げ捨てだ。
 
 あの時眠っていなくて本当に良かった、少しはあのバカ神と話しができたからな。なんて事を考えていると、頭の上で笑う声が。

『ふふふ、何をそんなにジッと見ているの? 2人を見ていても面白いことなんてないでしょう? あっ、さっきの事が気になるのかしら。あの人が何をしたのぉ? って。きっと今説明しても分からないわよね。でも話しかけることも大事よね』

 俺が男達をジッと見ていることに気づいた、俺を抱っこしてくれている綺麗な女の人が、さっきの男の行動について教えてくれた。

 どうもさっきのあの男の行為は、俺の体調を診る行為だったらしい。簡単に言えば診察だな。あの男は魔法で病気を見つけ、病気が見つかればその治療をし。
 もし怪我をした場合はその怪我を治すといった、この人達が住んでいる場所の治癒師で。病院の先生みたいな人物だった。

 さっきは俺のおでこに手を当てた状態で魔法を使い、体を全て調べてくれて。それで全く問題なしと診断されたんだ。
 俺が気絶をして、ここが何処だか分からないけれど、ここまで連れてきてもらった時に、1度診察は受けていたらしいけど。俺が起きたから、再度診察をしたって感じだ。

 怪我もしていなかったらしくて、俺としては先ずはひと安心だな。後でここへ連れてきてくれた人に、何とかお礼が言えれば良いんけど、気絶する前の記憶が曖昧だからなぁ。

『人間も俺達も、基本子育ては同じだ。どちらかと言えば俺達の方が、人間よりも神経を使うかもしれないくらいだ。この子は健康、しかも人間。今からご飯をいっぱい食べさせてやれ』

『分かった』

『キュリス、分かったと返事は良いが、まだ話し合いの途中で何も決まってはいない。皆席に戻れ』

 何処からか聞こえた、なんか圧を感じるような声。その声に男達が移動し、綺麗な女の人も女の子と一緒に移動すると目線が下がった。どうも何かに座った感じだ。そして周りの様子を見てみれば、部屋にいる人達が同じ方向を見ていた。

 が、俺の位置からだと、目をどんなに動かしても、みんなが見ている方を見ることはできず、途中で疲れて諦めることに。まぁ、話しが聞こえれば、とりあえずは良いか。バカ神にもらった言語能力は役に立ってるみたいだし。うん、そうだ。神は使えないが、これは役にたった。

『え~、それは僕があげたんだから、僕が役に立ったってことでしょう?』

『煩い、バカ神。お前が役にやったんじゃなくて、能力が役に立ったんだ』

 急に神が話しかけてきて、俺がそう頭の中で言い返していると。女の人の小さな声が。

『ふふ、嫌だわ。どうしたの、そんな変な顔をして。赤ちゃんが眉間に皺を寄せてブスッとした顔をするの、初めて見たわよ。可愛いお顔が台無しよ』

 俺、今そんな顔をしてたのか。俺は何とか腕を動かして、自分の頬を触って頬を揉む。そういえばこの世界には鏡があるのか? 俺まだ自分の顔を見てないんだけど。今度の人生こそイケメンに!!

『よし、話し合いを再開するぞ。アルゼイヤの報告の途中だったが。この子供がなぜここへ落とされたのか分かったか?』

『はっ! この子供が生まれた家を確認。何人か潜入させたところ、どうもこの赤ん坊の容姿が問題だったようで。黒髪、黒目の赤ん坊が、自分達の家系に生まれるわけがない。この赤ん坊がもし、もし魔力爆発を起こせばどうなる事か。そして気持ち悪いという理由で、この子供を捨てたようです』

『人間の世界では、黒髪、黒目は珍しいからな。なかなか生まれてこない。しかもその容姿の者は、魔力量が多いせいで、魔力爆発を起こすことも。きちんと育てる家族がほとんどだが、中には今回のように気味悪がり、赤子をいなかった者とする家族も』

『あの私達が感じた悪の感情は、それのせいか』

『色々な感情が混ざり合っていたものね。悪意、弱さ、罪悪感。それは色々な感情が。こんなに可愛い赤ちゃんを消そうとするなんて』

『では、ウィルフ、ディーナ、この子自体に何か問題は? 確かに魔力が多過ぎるという問題はあるが。それは何とでもできる。その他に問題はあるか?』

『俺が見た感じは問題はないな。今言った通り体に問題はないし、ここへ来てすぐにステータスも確認したが、こっちも問題はない』

『私の方も問題はありません。この子に呪いはかけられていないわ。まぁ、もし呪いがかけられていても、私がすぐに払ってしまうから問題ないけど』

 呪いだって!? この世界にはそんなにもあるのか。はぁ、良かった。俺は呪われていなかったらしい。どんな呪いがあるか知らないけど、あの最初の家族ならやりかねない。はぁ、本当の良かった。

『そうか。ではこの子自体に、問題は全くないのだな』