『パパ!! かあいい、あかちゃん、およいでる!』

『泳いでるんじゃない、溺れているんだ! 何か嫌な気配がして急いで戻って来てみれば。まったく人間は』

『あなた、それよりも今はこれを!』

『ああ、そうだな。よいしょっと…、よし、これで大丈夫だと思うが』

『良かったわ。ちゃんと息をし始めてくれたわね』

『はぁ、あと少し遅かったら、この人間の子供は息ができずに死んでいたぞ。ふぅ、良かった良かった』

『とりあえずこの子を連れて帰りましょう。そしてみんなで話し合わないと。他はその話し合いの後よ』

『そうだな』

『パパ、ママ。かあいいねぇ。あたしおねえちゃん?』

『ええ、そうね、かわいい赤ちゃんね。それにお姉ちゃんよ』

『えへへ。あたしおねえちゃん』

『さぁ、急いで帰ろう』 

      *********

『で、申開きは?』

『ありません』

『はぁ、何とか助かったけど。これからどうなる事か。今からでも行くはずだった家族の元へは行けないのか』

『それが、どうにも僕の力が上手く働かなくて』

『……お前は本当に神なのか?』

『それはもちろん!!』

『……』

 俺はこの神のドジのせいで、後どれだけ大変な目に遭わないといけないのか。どうも俺が行くはずだった家族と、俺を捨てた家族の誰かの名前が同じで。間違えて俺を、碌でもない家族の方へ送られてしまったらしい。それであれだ。俺は短時間でどれだけ死に関わるのか。

 今俺は、精神の世界で神と話しをしている。本体の俺は気絶しているが、優しい人達に助けられ、今はその人達の関係先のベッドで、寝かされている状態のようだ。もう少しで目が覚めるらしい。

『お前、良い加減にしろよ。俺はお前のドジのせいで、どれだけ死ねば良いんだ』

『本当にごめんね。僕も君との話しができなくなったら、色々調べてみるから。君がまた僕と話せるようになるまでに、ちゃんと原因を調べておくよ』

 簡単に話しただけで、詳しい内容は教えてもらえなかったが、どうも神のドジ以外に、何か問題が起きているようで、そのせいできちんと力が使えないと。本当かと思ったが、俺に何かができるわけもなく。

『はぁ。で、俺はどうしたら良いんだ』

『このまま、今君を助けてくれた人々に任せた方が良いと思う。彼らはとても愛に満ちた種族だからね。君を放り出したりせずに、君にとっての最善を考えてくれるだろう。その辺の人間よりも、彼らは本当に信用のできる種族だから』

『種族? 一体何の種族なんだ?』

『それは……と、そろそろ目が覚めるよ』

『おい!!』

 意識が上がってくる感じがする。そして俺の近くに誰かいるらしく、その誰かなのか、ハッキリとは言えないが、誰かの歌っている声が聞こえて。どうも小さな子供の声のような気がする。そして俺は、そっと目を開けた。

「ふにゃぁ!?」

 変な声が出た。でも仕方がないんだ。何て言ったって今の俺はただの赤ん坊。そして生まれたばかり。そんな赤ちゃん声しか出ないんだよ。

 俺が驚いた理由、それは目の前の大きな顔があったからで、思わず声が出てしまったんだ。驚く俺、じっと俺を見つめる丸い目。次の瞬間その丸い目が細くなり、そして口元はにっこりしたと思うと、顔が離れ誰かを呼ぶ声が。
 そしてその声からすぐに、誰かが早歩きで近づいてくる足音が。足音はどんどん近づいてくると、俺の側で止まり、さっきの顔と別の大きな顔が、俺を覗き込んできて。

『ママ、あたしちゃんとみてたでしょう? それに、いっぱいおうた、うたってあげたの』

『そうね。ありがとうケニーシャ。さぁ、みんなの所へ行きましょう』

 後から来た大きな顔の人が俺をそっと抱き上げ、そして背中をポンポンと優しく叩いてくれる。
 何とか目だけで最初の大きな顔の方を確認すれば、そこのは小さな女の子の姿が。3、4歳くらいだろうか。あれだけ話しているとなると、4歳か、それ以上か。

 どうも目が覚めた時に聞いた、あの何とも言えない歌を歌っていたのは、この女の子らしい。そう、何とも言えない歌を。
 そして今、俺を抱っこした女の人は、この子のママらしい。とても綺麗な女の人で、銀髪の髪の毛がキラキラ輝いていて、さらに綺麗に見える。

『ママ、あたしあかちゃんの、おねえちゃんになれる?』

『どうかしら。今みんなでお話しをしているわ。まだ決まっていないのよ』

『あのねぇ、あたし、いいこいいこできるよ』

『ふふ、そうね。もし家族になったら、いっぱい良い子良い子してあげてね』

『うん!!』

 何だこの違いは。最初の家族とえらい違いだな。そしてまだ名前は知らない、そして話しの内容から。まだ家族にはなっていないけど、家族になるかもしれないおねえちゃん、ありがとう。俺のことを思ってくれて。歌はアレだけど。

 そんなこんなで、部屋から出た俺達3人。廊下らしき場所を進み、あるドアの前で止まると、俺を抱っこしている女の人の代わりに、女の子がドアをノックした。声付きで。

『トントン、パパ、あたしきた!!』
 
 まぁ、確かの来た。あたしだけじゃなくてみんなで。すぐに部屋の中から男の人の声が。ただひと言『入れ』と。

 流石に女の子じゃ、この大きなドアの取っ手には届かないのでは? と思っていると、中から誰かがドアを開けてくれて俺達は中へ。
 部屋はとても広い部屋で、中にはたくさんの人がいて。見える範囲だけど最低10人はいそうだ。

『目が覚めたか?』

『ええ。しっかりとした目をしているわ。それに私が抱き上げた時、元気に手を動かしていたから、体も問題はないと思うけれど』

『どれ、見てみようか』

 色々な人が女の人に話しかけてきたと思ったら、1人の大きな男の人が、俺達に近づいて来て、俺のおでこに手を当ててきた。何だ? それにこの世界には大きな人間しかいないのか?