『おい、どういう事だよ!? 何でこんな酷い、新しい生活のスタートなんだよ!!』

『わわ!? 待って待って!!』

『待ってじゃないんだよ!! このままだと俺は、すぐにまたお前の所へ行く事になるぞ!!』

 今の神との会話は、全て俺の中でも繰り広げられている。新しい世界へ転生した後、少しなら神と話しができるって神は言っていたけど、それがちゃんと出来ているってことだ。
 もちろん赤ん坊に転生した俺は、ちゃんと言葉にして声を出せるはずもなくて、『バブ』とか『あー』とか、赤ちゃん言葉しか発せていないけど。頭の中では別だ。

 そして転生して早々、今の会話からも分かるように、大きな問題が俺に起きている最中だ。結果から言うと、俺は無事に新しい世界には転生できた。これに関しては何も問題はなく、目を覚ます前に神から、転生に成功した、と頭の中で言われた時はかなり安心したんだ。

 が、新しい世界に生まれ落ちて、最初に目に入ってきたものは、俺を不安そうな、嫌そうな、嫌悪感丸出しといった、色々な感情を向けて、俺を見てきている人々だった。
 何故生まれてきたばかりの俺に、そんな目を向けるのか分からず、どうすれば良いのか考えていた、新しい世界1日目。

 そして2日目に大問題が。俺の新しい両親と思われる人物が、俺を誰にも見られずに、何処かへ捨ててこいとと。いや、何処かで殺してこいと。そう騎士のような格好をしている人物に命令したんだ。

 まさかの事態に、すぐに神と連絡を取った俺。まだ神と連絡がとれ、それは良かったけど、騎士らしき人物は俺を布に包むと、もう1人の騎士らしき人物と一緒に、すぐに馬に乗り走り始めた。

「隊長、何処へ?」

「あの崖から落とす」

「せっかく生まれてきたのに」

「お前の言いたいことは分かっている。だが、これをしなければ、俺やお前の家族も同じ目にあう事になるのだぞ」

「しかし、それでもやはり」

「…‥私もまだまだ、心の芯は強くなっていなかったようだ」

 そのまま会話が止まり沈黙のまま、ただ馬が走る音だけが聞こえて。そんな静かな中、俺の頭の中では凄い騒ぎになっていた。もちろん俺と神が話しているからだけど。そうなるのも当たり前だ。俺は殺されようとしているんだからな。

『おい、俺はこの世界で、新しい生活を、まったりゆっくりな、もふもふライフを送るはずだったんじゃないのか!? このままだと殺されるんだぞ!!』

『何でこんな事に。確かに僕は、君と相性の良い家族の元へ送ったはずなのに』

『相性良いどころか、最悪じゃないか!!』

『ちょっと待って、今確認して、何とかできないか考えるから!』

『神の力で、俺を助けられないのか?』

『色々制限があるんだよ。君をもう新しい世界へ送ったから、あんまり干渉はできないんだ』

『めちゃくちゃ話してるじゃないかよ!』

『ついでに言うと、君を送った時に、かなり力を使ってね。そこまで力が残っていないんだよ』

『役に立たないな!!』

『仕方ないじゃないか!!』

 そんな不毛な会話を続ける俺達。しかし神がどうしてこんな状況になったのか、そしてこれからどうするのか、俺に伝えようとしてきた時には、騎士らしき人物達は、俺を殺す場所へ着いてしまった。

 何とか下を見れば、そこは高い高い崖の上で、俺を抱えてきた男は俺を高く持ち上げると。

「すまない」

 とひと言呟き、俺を崖から投げ落とした。そしてそれはあっという間。数秒後には俺は水の中へと落ち、そしてどんどん沈み始め。

『おい、何とかしろ!!』

『わわ!? とりあえず息ができるように、それから……』

 すぐに少しだけだが、そしてどういう方法なのか分からないが、呼吸が少し楽になり、俺は水の中でもすぐに死ぬ心配はなくなったようだ。

『これで数分はなんとかなる、その間に君を何とか浮かせて』

『数分!? 早く上げてくれ!!』

『待ってよ、今やるから。あ、あれ? 上がらない? 何で!?』

『本当の役に立たないな!!』

『煩いな!! こうして、ああして』

 それからは浮上したり沈んだりを繰り返したが、一向に水面までたどり着くことは出来ず。それどころか上がったり下がったりをしているうちに、最初よりも沈んだような?

『お! 本当に何とかならないのか!?』

『何でこう、上手くいかないのかなぁ。何が問題?』

『はぁ、これはすぐにお前の所に戻る事になりそうだな。さっきから息が苦しくなってきてるしな』

 そう、途中から息がしづらくなってきていたんだ。あと少しすれば、完璧に息ができなくなるはず。苦しい思いはしたくはないが、あの神だ。俺は助けられる気がしない。何でこんなのが神なんだ。

『え? あれ? 僕間違った!?』

『今度は何だ?』

『い、いや。送った家が。僕が考えていた家族と、今回送った家族の名前の部分が同じで……』

『……おい』

『ご、ごめん。すぐに助けて、本当の家族の家に』

『それは後だ。もう息がもたない』

 もう、ほとんど息ができない。ここは神の元へ戻り、さっきは許したが今回は神に文句と、何かの方法で罰してやろう!! 

 そんなことを考えた時だった。いきなり俺の前に、ヒラヒラとした、とても綺麗な細い布? のような物が流れてきたんだ。俺は思わず、その綺麗なものに手を伸ばそうとする。

 と、今度はその綺麗な布が、小さな女の子に変身して。俺の見間違いか? 息ができなくなって、幻覚でも見ているのか? 俺はその女の子を見ながら、そっと目を瞑った。

『パパ!! あかちゃん!!』

『良かった、何とか助かったみたいだ。そういえばここは彼らの国だったっけ』

 そう、小さな子の声と神の声が聞こえたような気がした。