~千鶴side~

悠華さんと手を繋ぎながら歩き始めて五分ほどたったところで、会いたくない人と出くわしてしまった。

「千鶴?」

目があってしまった。

目が合っていなかったらまだ、知らないふりをできたというのに。

もう遅いと分かっていながらも目を逸らし、悠華さんの手を引く。

「千鶴でしょう!?」

後ろから声が聞こえるけど、足を止めることはやめない。

だけど少しだけ、ほんの少しだけ、躊躇している自分がいる。

「お願いよッ、話を聞いて」

無視したいと最後に聞いてあげるという気持ちの手便が今、「話を聞いてあげる」に傾いた。

「・・・何」

歩く足を止め、ゆっくりと振り返る。

「千鶴、家に帰ってきてくれない?お願い」

ああ、まだそんなことを言ってくるんだ。

「嫌です」