ふー。

ここのお風呂は、木造でいい匂いがした。

「お先でした」

「うん。俺も入ってくるね」

そう言って、部屋を出ていった。

悠華さんがいなくなった後に、部屋をもう一度見渡してみる。

やっぱり、部屋は黒に統一されていてすっきりしている。

良く言うと『整頓されている』悪く言うと『物があまりない』。

「あっ」

部屋の隅っこに棚があるなと思ってみるとそこには、本がびっしり入っていた。

「ものがないと思ったら案外、あるじゃん」

ボソッと一人ごとを呟いて、棚に手を伸ばす。

「あっ、これ」

私が手にしたのは、千尋が欲しがっていた小説だった。

身分の差を乗り越えた恋愛小説。