この娯楽施設は、基本24時間営業だ。そのため掃除の時間もその時その時で違ってくるんだけど。露天風呂と温泉は、必ず1日に1回は清掃作業を行なっている。

 もちろんみんなルールを守ってくれていて。湯船に入る前には、備え付けの大きな樽からお湯を出して体を洗ったり、水魔法や水魔法を変化させたお湯で体を洗ったり。他にもクリーン魔法があるから、それで体を綺麗にしてから、湯船に浸かってくれている。

 だけどやっぱりいろいろあるからさ。毎日の掃除は大事だ。他にも清掃専門の従業員を雇っていて、温泉だけじゃなく、施設全体を綺麗にしてもらっているぞ。

 それで温泉なんだけど、なるべく人が少ない時間帯に温泉を閉鎖。そして入っていた人達がみんな出たら、一気に掃除をして、お湯を溜めてからまた再開するという感じだ。

 施設に来て、始めに受付に寄ってもらった時に。露天風呂と大浴場は、空いてる時間がいつも違うから、いつ掃除の時間になるか分からない。そのため、もし閉鎖していたら、2時間くらい様子を見てから行ってください、と説明をしてもらっている。

 そして今いる魔獣と魔物専用露天風呂なんだけど。掃除したのが深夜2時頃。掃除は問題なくいつも通りに終了し、止めていた温泉が出てくる線を抜いて、あとは掛け流しだからそのまま放置。

 一応お湯が溜まった頃に確認に来て、しっかり溜まっているのを確認し大丈夫なら、また温泉の営業が再開する。

 だから今回も、朝方4時頃確認しに来てくれたんだけど。すでにそこには今の光景が広がっていたと。

 大量のお酒の樽の横で、酔っ払って寝ているケシーさん。従業員はケシーさんに声をかけながら、周りを確認し、周りはお酒の樽以外問題はなしだったと。いや、お酒の樽も問題は問題なんだぞ?

 だけどすぐに、違和感を覚えた従業員。恐る恐る違和感を感じた、浴槽の中を除いてみると、浴槽の中が生け簀になっていた。

 発見してくれた従業員は、すぐに問題レベル5と判断。それで俺に連絡が来たんだ。と、ここまでが俺が呼ばれるまでの流れだった。

 次は問題のケシーさんの方だ。今回のことだけど、やらかしたケシーさんが悪いのは勿論なんだけど。ケシーさんが施設へ来たタイミングが悪かった。そう、タイミングが。

 まず、ケシーさんが住んでいる森の近くには海があって。ケシーさんは海でよく、そのままの姿で魚の獲ったり、普通に釣りをして過ごしている。
 そして数日前も、魚釣りをしようと海へ出かけたケシーさん。すると何故か、今、浴槽に入っている魚が大量発生していて。食用の魚だったため、ケシーさんは空間魔法を使い、その空間に魚を収納。空間魔法には、生き物を生きたまま収納できる物があるんだよ。

 大量の魚にニコニコのケシーさん。が、その後すぐに、今度はケシーさんが住んでいる森で、天然のお酒が大量に湧き出し。それもささっと作った樽に入れて、空間魔法で収納して。

 大量の魚に大量のお酒。ケシーさんはこれだけの量があるんだから、みんなで宴会をしようと思いつき、施設まで来てくれたんだ。

 と、ここまではとっても嬉しい提案で、問題はなかったんだけど。俺達が住んでいる森へ到着しても、森をフラフラしたり、他の街に寄ったりして。おそらくそのフラフラしている時に、師匠に情報をくれた人と会ったんだろう。

 そして俺達の住んでいる街に着いたのが、掃除が終わった頃だった。が、着いたはいいけれど、着いた時間に俺が寝ているのを知っていたケシーさんは、俺に来たことを知らせずに露天風呂の方へ。
 露天風呂で時々お酒を飲んでいる人達がいるから、一緒にお酒を飲んで、魚を食べながら、俺が起きるのを待とうとしたらしんだ。

 だけどその時間は、掃除のために全部の温泉に人はおらず、お湯が完全に溜まるちょっと前の頃で。お湯が少し少ないなんて、毎日来ている人じゃないと気づかないだろうからな。
 何で誰もいないんだろう? とは思ったらしい。だけどまぁ、そのうち誰か来るだろうし、みんなが来るまでに用意しておこう。

 そう考えたケシーさんは、魚は浴槽の中へ入れ、お酒は周りに並べた。今回の魚は、淡水や海水なんか関係なく、しかも露天風呂の温度は40度くらいなんだけど、それくらいなら余裕で生きられる魚だったため。魚は浴槽の中を元気に泳ぎ回っている。

 用意が終わったケシーさんは、先に晩酌を始め、みんなを待つことに。その場で魚を獲り食しながら、お酒を飲むケシーさん。

 だけどこれまで遊んでいた疲れからか、すぐにお酒が回ってしまったらしく。酔っ払い、いつの間にか床上で、大の字で寝てしまった。そんなケシーさんを、確認しに来た従業員が発見。こうして俺に連絡が来たと。これがケシーさんの流れだった。

 まったく!! みんなが利用する露天風呂に魚を放つなんて。ここは魚を食べるために用意してある露天風呂じゃないんだぞ。お客さんにゆっくりしてもらおうと、清潔に保っているのに。いや、別に魚が汚いってわけじゃないけど。

 この世界の川と海は、底が完璧に見えるほど綺麗なんだ。だからそこに住んでいる魚も綺麗だし、とっても元気だ。だから別に悪いって事はない。ないけれど。
 それでもここは温泉なんだ。決して魚を入れる場所ではない。はぁ、これじゃあ少しの間、この露天風呂は閉鎖だよ。掃除をし直さないといけないからな。

『まったく、何度言えば分かるんですか。必ず、必ず!! 何かするなら、俺に話してからにしてくださいって言っているのに。これ以上何かやるようなら、出入り禁止にするかもしれませんよ!!』

「うう、それは」

『何も全部やらないでください、と言っているわけではないんです。話しを聞いて大丈夫だと判断できれば、俺や従業員が手を貸しますよ。今回だって、魚やお酒を持ってきていただいたことはとても嬉しいです。でも今の状況にする前に、しっかり話してくれていれば、今頃楽しい時間を、過ごせていたかもしれないんですよ!!』

「本当に申し訳ないことをしたわ。ごめんなさい。でもすぐにでも魚を食べ、お酒を飲みたかったものだから。それにみんなすぐに来ると思っていたのよ。それで先に始めてしまったの。本当にごめんない。すぐに魚とお酒を片付けて、ここを掃除するわ」

『掃除はこちらでします!! あなたは何もせずにそこで見ていてください。何もせずに!』

 これ以上何かされたらたまったもんじゃない。だけどそうだな。確かに魚とお酒は片付けてもらわないとだな。

 そう思って、じゃあ魚とお酒だけは片付けてもらおうと、ケシーさんに声をかけようとしたその時。向こうで湯船の中を覗き込んでいたリル達の話しが聞こえてきた。

『うまく取れないねぇ』
 
『ねぇ、ツルッと滑っちゃう』

『難しい』

『でもさ、うまく取れたら嬉しくて、きっとジャンプしちゃうよね』

『うん! きっとジャンプしちゃう。それに取れないのも楽しい』

『魚掴み取りだね』

『これお片付けするのかな?』

『うん、すると思うよ』

『お片付けの前に、もう少しだけ魚掴みさせてもらえないかな?』

 ここは露天風呂で、魚を掴み取って遊ぶ場所じゃないんだぞ。まったく、ケシーさんのせいで、リル達が変なことを考えるようになったらどうしてくれるんだ。はぁ、すぐに片付けを……。

 ん? 魚掴み取り? ……それだ!!