『この辺で良いかな』

 他の人に迷惑にならないくらいには離れたか? うん、この辺で良いだろう。俺は周りを確認した後、自分の肋骨を1本外す。

 そのままだ。骨を投げてやるんだよ。他にも投げて遊べるおもちゃは用意してあるけど、骨型のおもちゃは、俺の骨を投げれば良いからな。ちなみに俺の骨は取り外し自由だ。

『あのねぇ、スッケーパパ』

『ん? どうした?』

『リルねぇ、この前川でぇ、泳ぐ練習したの。それでねそれでね、前よりも速く泳げるようになったんだよ!!』

『そうなのか! 凄いじゃないか!! じゃあしっかりリルの泳ぎを見ないとな!』

『うん! リル頑張る!!』

 いつの間に練習していたのか。しかも速く泳げるようになったなんて。まぁ、もしも速くなったとリルが思っているだけだったとしても、しっかり褒めてあげないとな。

『よし、それじゃあ投げるぞ。フンッ!!』

 俺は思い切り骨を投げた。

『ブ~ンッ!!』

 リルが声を出しながら思い切り、お湯の中をいぬかきで、物凄い水しぶきをたてながら追っていく。

 そして骨が沈んだ場所へ到着すると、さらに水しぶきをたてながら潜水をして、見事骨をゲット。また凄い水しぶきをたてながら、俺の所へ戻ってきた。うん、確かに前よりも速く泳げているな。

『本当に速く泳げるようになってるな、凄いぞリル!!』

『ふへへへ、リル凄い? ふへへへへ』

 俺は思い切りリルの頭を撫でてやる。ちなみに俺の今の状態は立ち泳ぎだ。魔獣と魔物のお風呂は深いだろ。だから俺はどうしても立ち泳ぎになる。

 そしてリルの泳ぎだが。そう、リルの泳ぎはいぬかきだ。まぁ、もともとフェンリルとホワイトウルフとの子供だから? 犬系だからいぬかきでもおかしくはないんだけど。

 いぬかき。リルのお母さんフフリは、泳ぐのが得意で。川だろうが海だろうが温泉だろうが、スイスイ水しぶきをたてずに、綺麗に泳ぐことができる。余計な動きがないから、本当に綺麗に泳いでいるんだ。海の生き物みたいにな。

 だけど父親フェーンは……。今のリルみたいにいぬかきで、思い切り水しぶきをたてて泳ぐんだよ。いや、今のリル以上だな。そのせいで何回他から文句を言われているか。

 2階の天井の高さにまで、水を飛ばしたこともあって。そこではちょうど洗濯物を干している従業員が。まぁ、怒られるよな。思い切り怒られて、体の大きさがいつもの3分の2くらいになっていたと思う。

 それにフェーンのいぬかきは、いぬかきもどきというか、下手したら溺れているんじゃないか? って程に本当に酷くて。前に初めて見た獣人が溺れていると勘違いして、救出されたことも。

 ただ、それだけ酷いいぬかきでも、本人はしっかりと綺麗に泳げると思っていて。リルの泳ぎの先生をしようとし。全力でフフリや、率いている群れのホワイトウルフ達に止められていた。

 結局リルにはフフリが教える事に。だけどほら、今フェーン達は他の家族を助けに行っているから、泳ぎは俺が教えていたんだけど。

 そういえばリルは練習したと言っていたけど、1匹で練習したのか? それとも誰かに教わったのか? それならその教えてくれた人にお礼を言わないと。

『リル、速く泳げるように練習したのは、とってもいい事だぞ。だけど1匹で練習したのか? それとも誰かに教えてもらったのか?』

『アマディアスおじさんに教えてもらったの』

『アマディアスさんが!?』

『うん! えっとねぇリル、最初は1匹で練習してたの。でも途中で、悪い人をやっつけて、その人をブンブン振り回しながら、鼻歌を歌ってたアマディアスおじさんと、みんなが通ったんだよ。それで僕のいぬかきを見て教えてくれるって。僕いっぱい教えてもらったの!』

 気になったが、先にリルと遊ぶ事に。後で詳しい話しを聞かないと。それから何回も骨投げで遊んだリル。それが終わると持ってきていた別のおもちゃで遊び始めた。

 黄色いアヒルの子の人形に似ている、水色の小鳥がこの世界にはいるんだけど。その青い鳥を、黄色いアヒルの子人形と同じ感じで作り。
 それを紐で繋げて、紐を引っ張ると、5匹の青い小鳥の人形がついて泳いでくる、というおもちゃを作ったんだ。黄色いアヒルの子でも確かこんなおもちゃあったと思うけど。この繋がってる鳥のおもちゃも、リルのお気に入りで。紐を口で咥えて、楽しそうに遊んでいる。

 そしてこの青い鳥のおもちゃだけど。おもちゃを見た子供を持つ親達から、子供にも作ってくれないかと、かなりの人数に言われて。だから職人に頼んで作ってもらったら大ヒット。今は生産がギリギリ状態だ。まさかここまで人気はでるとは。

 あとはお湯に入れると色が変わるおもちゃとか、濡らすと石にくっつくおもちゃとか。ワザとお湯に沈めて、潜って取ってくるおもちゃとか。まぁ、色々な遊びをして、1時間以上のお風呂は終わった。

 そして夕食は大食堂では食べずに料理だけ受け取って、俺達の家で食べる事に。施設には泊まれるように宿もあるって言っただろう? 宿というか6階建てのホテルみたいな宿が3つあって。そのうちの1つ、最上階の6階全てが俺の家なんだ。

 宿を建築している時に、どうせならここにそのまま住めば良いって、俺の家を作ってくれる事に。それで希望を伝えて、その通りの部屋を作ってもらったんだけど。出来上がってみれば、俺の希望の家よりも何倍も広いことに。

 俺はお客さんの部屋、家族ルームくらいの感覚で作ってもらおうと考えていて。他は授業員が使えば良いって。でも6階が全部俺の家になってたんだよ。
 これぐらい部屋がある方が良いし、ここの責任者なんだから、思い切り広い家にしないと、という理由らしい。

 勿論俺は断ったさ。でも最後は押し切られる形で、6階が全て俺の家になってしまい、従業員用の建物は別に建てたんだ。
 まぁ、この街の綺麗な夜景を見ることができて嬉しいけれど、結局部屋は3分の1しか使っていない。使い道を考えないとな。

 どんどん階段を上っていく。すると6階まで上り切る直前、階段上から人影が見えた。