異世界初?のスーパー銭湯もとい『娯楽施設スケルトン』開業します!!


 マッサージ店に行くと、かなりの行列で。俺にマッサージなど不要だけど、マッサージ師がどんなマッサージをしているのか気になり、邪魔はしないからと、外から様子を見させてもらう事に。

 そのお店には何人かマッサージ師がいて、待っている患者さんに聞いた所、幸せそうな人達をマッサージしたのは、1番歳をとっているお爺さんだと教えてもらった。
 勿論他の人にマッサージをしてもらった人達も、ニコニコで帰って行ったけど。そのお爺さんにマッサージされた人達は、比べられない嫌い本当に幸せそうに帰っていって。

 ようやくお店が終わったのは、夜11時を過ぎてからだった。

「すまんのう、待たせてしまって。今日はいつもよりも人数が多くての。いつもならば1時間くらい早く終わるんじゃが」

 勝手に待たせてもらっていた俺に、お茶を入れてくれようとしたお爺さん。1時間早くって、それでも夜10時だ。

 毎回こんな遅くまで働いているのか。今日は話しを聞くのをやめて、たとえばお爺さんがお休みの日にでも、改めて話しをさせてもらう約束ができれば。そう話そうとした時。

「今日の営業は終わりましたか?」

「おう、爺さん、お疲れ様!!」

「彼があなたに興味を持っていると連絡が入りまして。どうせなら共に話しをさせてもらおうと思いまして」
 
「いつ声をかけようか、相談してたんだよ」

 2人組の男がお店に入って来て、俺の事を見ながらお爺さんにそう話し。

「そうじゃろうな。お主、ちとこれから、少しわしらと話しをしないかのう」
 
 こうしてよく分からないまま始まった、お爺さんと2人の男達との話し合い。最初はもちろん自己紹介からしたんだけど。まさか始めの自己紹介の時点で驚くことが起きるとは。

 まずマッサージ師のお爺さんだけど。俺のような末端の最弱のスケルトンでも知っているような、大賢者ウェンセスラスだった。大賢者、いやいや大大大賢者か。
 この世界で魔王と勇者の次に力を持っていると言われている程の人が、まさかマッサージ師をしていたなんて。

 国に支えていたはずの彼がなぜここに? 驚きのあまり声が出せないでいる俺。でも驚きはまだ続いた。

 2人の男のうちの1人、丁寧な口調の男は魔王アマディアスで、ちょっと、いや普通に口が悪い方の男が、勇者ジェラルドだと言ったんだ。俺はそれを聞いて、さらに固まることに。

 いや、もちろんこの街を作ったのは、魔王と勇者だと言うことは理解していたよ。それにこんなに素晴らしい街を作るなんて、凄い2人だなって。
 でもさまさかその代表の2人が、目の前に現れるなんて、そんなこと普通思わないだろう? だってこの街の代表だぞ。魔王と勇者だぞ。

 俺の前に座ってニコニコしている魔王、勇者、大賢者。何でこんなことになったんだ? 少しして固まって体は動いたけど、今度はアワアワすることに。そんな俺に、今度はニコニコではなくニヤッと笑いかけてきた魔王。それにまた固まる俺。

 そんな固まったり、アワアワしていた俺だけど。その後の3人のまさかの話しを聞くうちに、今度は緊張どころではなくなった。

 どうも俺がこの街がある森へ来た時点で、魔王も勇者も大賢者も、俺の存在に目をつけていたらしく。何と街の入ってからは部下や仲間に、俺の監視をさせていたらしんだ。しかも自分が動ける時には、自ら監視をしていたと。

 ほら、俺は争い巻き込まれて攻撃を受けた時から、その影響なのか魔法が使えるようになっただろう。それは魔法が使えないほど微弱だった魔力が、上がったからだろうと思っていた。
 だけどどうもその魔力が、俺が考えていたよりもかなり、いや莫大に上がっていたらしく。

 この森に入るには『真実の目』を持った人達の鑑定を受けて、敵意を持っていないと判断した人しか森に入れないんだけど。

 ちなみに『真実の目』っていうのは、相手がどんな感情を能力を持っているか、鑑定できるもので。その真実の目を持っている人達を森の周りに配置。
 その人達が『真実の目』を使って、問題がないと判断されると、森の中へ、街の中へ入ることができる。

 それでその『真実の目』で鑑定された俺。あまりに俺の魔力が莫大だったせいで、もしかしたら真実の目が弾かれた可能性があり、もしも街を攻撃しに来たのならば……、と監視していたって。

 でも俺の行動を見るうちに、そして俺の魔力を調べるうちに。俺の魔力からは敵対しているような、悪意のある? 刺々しい? 感じはせずに。それどころかまろやかな? 感じがしたと。

 そして先日3人は集まり、俺のことを話し合い、敵対する者ではないという結露に。そして監視よりも、ここは1度俺に話しを聞いてみようということになったんだけど。

 そうしたら、たまたま俺が大賢者ウェンセスラスのお店へ来たものだから。みんながここへ集まった、とういう事だった。

 話し? 話って何を話すんだ? そう思っていた俺。するとまたあのニヤリ顔で魔王が。

「話しを聞こうとというか、私達はあなたをスカウトしに来たのですよ」

 そう言ってきたんだ。
 まず、スカウトの話しを聞く前に、俺がどうしてそんな莫大な魔力を持っているのか聞かれたため。俺は別に隠すことじゃないと、争いに巻き込まれ、攻撃を受けた衝撃で、もしかしたら魔力が増えたかもしれないことを話した。

 勿論、前世を思い出したことや、地球のこと、日本のことは話さなかった。そんな話しをしても信じてもらえるか分からないし。もし信じてくれたとして、どう考えても面倒なことになりそうだったからだ。

 話しを聞いている時の魔王と勇者と大賢者の表情といったら、まぁ、興味深々という感じです。少しでも気になることがあれば、ずいずいと細く聞いてきたからな。
 もしもここで前世や日本のことを話していたら、全く話が進まなくなっただろうし、俺は離してもらえなくなっていただろう。

 そうして俺の話しをした後は、どうして俺をスカウト、なんてことになったのかを聞いた。

 ここは魔王と勇者、そして2人の仲間達が作った、どんな種族も差別なく、みんなが楽しく幸せに暮らせる街。最初は何もなかった森が、今では中心の大きな街以外にも街ができるほど発展を遂げて。今でもどんどん街は発展の最中だ。

 だけどそれをよく思わない奴らがいるだろう? まぁ、そんな奴らにも色々な思惑があって。

 どうにか悪魔と勇者を説得し、この街自体を手に入れようと、魔王と勇者の戦力を手に入れようとしている奴ら。

 魔王や魔物達を悪とみなし、他が正義だと言わんばかりに、勇者に考えを改めさせ。完全にこの世界から悪とされている魔王達を消し、自分達の世界を作ろうとしている奴ら。それと逆に勇者達を害とみなし、魔王の世界を作ろうと考えている奴ら。

 今だけとりあず、魔王と勇者に取り入り、後から全てを支配しようと考えている奴ら。
 
 と、こんな風に、森の外には沢山の敵がいて。説得とか取り入れられようとか、こういう奴らに聞い撃されることは稀だが。他の敵対してい奴らはいつでもこの森を攻撃してくる。

 もちろん魔王と勇者。そしてなぜか大賢者がここでマッサージ店を開いているんだ。他からの攻撃されたところで、なんてことはないんだけど。

 それでもここに住んでいる、ここに滞在している人達の中で、力のある者達には。魔王や勇者達が不在の時に攻撃を受けた時、力の弱い者達や子供達を守ってもらいたいと。お願いをしていると。

 そしてここに居る人達は、ここが大好きな人ばかりだからな。みんな魔王や勇者の話しに納得し、この素晴らしい街を守るってくれてるって。人によっては、それぞれ守る場所の担当が決められているらしい。

 それで、もしも俺がこの街を気に入って、これからここに住むならば。それか住まなくても長期滞在するのであれば。その間俺の力も貸してほしいって。それのスカウトだったんだ。

 でも俺は魔力に目覚めたばかりで、基本的な初級魔法しか使えないのは、真実の目で、それは確認済みだったから。
 もしもこの街を守ってくれるのなら、しっかりと魔法を教えようと考えていると。しかもその魔法の先生は、大賢者だって言うじゃないか。

 大賢者だぞ? 世界の国々がどんな事をしてでも、自分達の戦力として欲する、魔王と勇者に続く力の持ち主で、人々から絶大な信頼もあつく。
 弟子を志願する者が後をたたない。でもどんなことがあっても、弟子を取らないと聞いていた大賢者が、俺の魔法の先生に?

「勿論すぐに決めろなどと、そんなことは言わない。この街のためにとお願いしているのだから、よくこの街を知ってもらわなければ」

「お前、確か30日ここで過ごすって申請してただろ? その30日を過ぎて、もし次回もこの街に来てくれて。それで更にこの街を知った上で、俺達の話しを考えてくれれば良い」

「なにせ、この街は素晴らしい物ばかりじゃからの。そして素晴らしい人々ばかりじゃ。そんな素晴らしい物をよく知ってから考えてもらえれば……」

『住みます!! ここに住んで街を守ります!!』

 うん、即決だった。だってまさかみんなの憧れの大賢者に、魔法を習うことができるなんて。こんな素晴らしい事はないし、俺も魔法が上達するならばありがたかった。

 勿論それだけじゃない。まだその時は数週間しかこの街に滞在していなかったけど、俺はこの街が大好きになっていたし。ここで暮らしている人々のこともとても好きになっていた。

 この素晴らしい街で暮らせて、魔法も使えるようになって、この街のために俺の力を使えるなら。こんな良い話し、断る方が馬鹿だ。と思った俺はすぐに了解したんだ。
 こうして話しを聞いた日から、俺はこの街の住人になり、師匠ウェンセスラスとの魔法の訓練が始まった。いや、詳しく言えば、魔王アマディアスと勇者ジェラルドも、何故か俺の訓練に参加してきて。

 特訓は森の一角を使って行われた。そして師匠のウェンセスラスは、厳しくもしっかりと俺に魔法を指導してくれ、本当に充実した訓練だったんだけど。まぁアマディアスさんとジェラルドさんといえば。

 アマディアスさんは数分。本当に数分、簡単の説明しただけで、今すぐすやってみなさいと言ってきて。
 2回目でできないと、何故教えたのに、すぐにできないのですか。まったくこんな攻撃も防げないようではどうするんです! 私のこの魔法を破らないと街へは戻れませんよ、消えますよ? と。

 数分教えてもらって、その後の数回の練習で、初めての魔法が使えるか!! とツッコミを入れそうになりながら。それでもこの世界から消えないように必死で耐えたよ。だってせっかくこの世界に生まれたんだからさ、消えたくないだろ?

 そしてジェラルドさんだけど。ジェラルドさんは、最初に一言。

「俺は教えるのが苦手だ!! というか教えられん!! だから見て覚えろ!!」

 と。どんな訓練をするかの説明もなく、俺に魔法を放ってきた。ついでに剣も教えると言いだし、やっぱり教えられないから見て覚えろと。そのせいでやっぱり何回も消えそうになった俺。教えられないなら、余計なことしないでくれと、何度そう思った事か。

 しかし師匠と余計なアマディアスさんとジェラルドさんのおかげで、俺はどんどん魔法も剣術もレベルを上げていくことができ。というか命懸けだったからな。人は、いやスケルトンは命がかかっていると、普段以上の力を発揮することができるらしい。

 そんな魔法と剣術の訓練の傍ら。俺は師匠にマッサージについても習う事に。何回か師匠のマッサージを見に行くうちに、みんなの幸せな顔を見るのが楽しみになっていて。

 そして日本での社畜時代を思い出し、この街には外の世界に疲れた人達も来ていたから。そういう人達が前世の俺のように、疲れたまま人生を終えるなんて。俺も前世ではマッサージでかなり救われていたなと。
 
 俺もあの時のマッサージ師さんのように、マッサージでみんなを幸せにできたら。そう思って、マッサージ師としても、師匠に弟子入りしたんだ。

 魔法に剣にマッサージの訓練にと、生活はかなりハードだったけれど、でもマッサージの練習に関しては、大変というよりも楽しいという思いの方が大きかった。あくまでマッサージだけだ!

 そんな訓練を始めて半年が経った頃。その日は魔法の訓練を終えた後、マッサージの練習をしていて。何故かそれを見学しにきていたアマディアスさんとジェラルドさん。俺が練習する隣でぺちゃくちゃと煩いこと煩いこと。

 あんまりにも煩いから追い出そうかと思った時、2人がある話しを始めて。それは街のすぐ隣にある、温泉についての話しだったんだけど。街の隣に自然の露天風呂があって。この露天風呂は、この森に住んでいる誰もが使える使えるようになっていた。

 ただ、この温泉い入ると、体が元気になると。それ目当てで最近どうにも人数が増えて、温泉をそろそろ広くしないとダメだ。
 そして人数が増えた事で、宿も娯楽施設も、色々な施設が足りていない。どうせ増やすなら、宿屋が集まる場所、娯楽施設が集まる場所、酒場などそれぞれまとめて建てた方が良いんじゃないか。

 なんてそんな話しをし始めたたんだ。その時俺が思ったこと。温泉と娯楽施設に食事に宿か。それをそれぞれまとめるのは良い考えだと思う。だけど全部をまとめたら、日本にあったスーパー銭湯みたいになるな。だった。

 と、そう思った瞬間、アマディアスさんとジェラルドさんが俺の目の前に。しかもお互いがそれぞれ俺の肩を掴んでいて。

 何だと思ったら、どうやらその時思っていた事を口に出していたらしく。俺が今言った物は何だ!! とマッサージの練習を中断して聞かれる事に。

 そしてこの世界の人達に分かりやすいように、スーパー銭湯の説明をすること数時間。この街代表の2人により、この街にスーパー銭湯を建築することになってしまったんだ。しかもその施設の責任者は俺だと、言い出しっぺの俺が責任者に任命されてしまい。

 勿論何回も断ったさ。何で転生してまで、責任者なんて大変な仕事をしなければならないんだ。俺はマッサージで人を幸せにしたんだと。

 でもダメだった。話しはすぐさま街中に伝わり、他の街へもその日のうちに伝わってしまって。最終的にアマディアスさんに脅され……。いやいや、説得されて。俺が新しい施設の責任者になってしまったんだ。

 施設は街の隣に建築することに。街から直結している感じで、広さは広い街の半分くらいの広さで作られ、かなりの広さの施設になった。
 街の半分の広さって何だよ。それは施設じゃなくて、普通に小さな街なんじゃ? 何もそんなに広くしなくても良いんじゃないか? と思ったほどだ。

 だけど魔王曰く、絶対これくらいの広さが必要になると。その時はそれが、どういう意味か分からず。そのまま魔王の言うことを聞くしかなかった。だけどまぁ、今となっては、確かにこれだけの広さが必要だったなと納得している。

 そして魔法と剣の訓練を始めて1年、ようやく魔法と剣については3人に認めてもらい。さらに半年後、マッサージ師としても師匠に認められた日に、街に新しい施設が誕生した。

 それがスーパー銭湯もとい『すっごい娯楽施設 スケルトン』の始まりだった。
『リル、今日は何が食べたい?』

『えっとぉ、今日はタートル肉団子とツノサイのステーキ!!』

『分かった。他には?』

『うんとねぇ、パンケーキ!! 果物いっぱいが良い!!』

『よし、いっぱいで頼もうな』

『やったぁ!! スッケーパパは石いっぱい?』

『ああ、そうだ。石いっぱいだ』

 リルに何を食べたいか聞きながら食堂へ向かう俺達。俺達が今向かっている食堂は、この施設の中で1番大きな大食堂だ。

 勿論施設には大食堂だけじゃなく、ちょっと良い料理を食べることができたり、地球みたいに、ラーメンとか揚げ物とか焼肉屋とか、専門的な飲食店を複数用意してあるし。大人が楽しめるように、お酒を飲むお店も用意してある。

 だけどこの大食堂にくれば、ファミリーレストランみたいに何でも揃っているので、俺とリルはよく大食堂へ来て食べるんだ。

 そうそうリルのことだけど。俺のことをパパと言っているが、勿論俺の子供じゃない。フェーンという名のフェンリルがいるんだが、そのフェーンの子供だ。

 リルとの出会いは約3年前、俺のマッサージ師としての修行が終わる少し前のこと。その時フェーンが奥さんのホワイトウルフ、名はフフリと。まだ小さかった、1歳になったばかりのリルを連れて、師匠のマッサージを受けにきて。それがリルとの初めての出会いだった。

 フェーン達が師匠にマッサージを受けている間、俺はリルの相手をする事に。魔獣がマッサージ? なんて思うかもしれないけど。師匠のマッサージは魔獣にも大人気で、よくお店に魔獣が来ているんだよ。勿論その魔獣達も、マッサージの後は幸せな顔をして帰って行ったぞ。

 その日のフェーンは、肩と腕を痛めたとかで、自分の回復魔法で、肩の痛みを治したが。どうにも違和感が消えないって事で、マッサージを受けに来て。奥さんのフフリは、旦那の面倒を見ていて疲れたからと、マッサージを受けていた。

 フェーンが何で肩と腕を痛めたか。それは何とも言えない理由だった。
 その日の午前中、森の中で食料を探していると、ある魔獣が目の前に現れたと。その魔獣とは、ミートフロッグという名の魔獣で。簡単に言えばカエルに似ていて、だけど大きさは大型犬と同じくらい。食べる事のできるカエルで、その質感は牛肉に似ている、食用魔獣だ。

 ただ、目の前に現れたミートフロッグは、まだ若かったらしく、大きさが平均の半分くらいだったらしい。だけどリルのはちょうど良いだろうって事で。フェーンはそのミートフロッグを狩る事に。

 だがそのミートフロッグ。なかなかの動きをするミートフロッグだったようで。もともとかなり素早く、動くことができるミートフロッグなんだけど。そのミートフロッグは、平均の倍は早く動いていたって。

 と、そうは言っても、フェンリルのフェーンにかかれば、何の問題もないと。舐めてかかっていたフェーン。見事ミートフロッグの動きと策にはまり、思い切りずっこけたと。そのせいで肩と腕を痛めたらしい。

 カエルにやられるフェンリル……。結局そのミートフロッグには逃げられ、フェーンが肩と腕の治療をしているうちに、フフリが別のミートフロッグを仕留めた。

 そんな、フェンリルとしても父親としても、威厳もなにもないと、怒っているフフリの話しを聞きながら、リルと遊んでいた俺。始めてスケルトンと遊んだせいか、リルは俺に興味深々で、そしてすぐに懐いてくれて。俺の肋骨をを投げてやるととても喜んでいた。

 そうして遊びがひと段落つくと、リルが俺に、俺はミートフロッグを倒せるかと聞いてきて。倒せると言ったら、何故かその姿を見てみたいと言われてしまい。数日後みんなでミートフロッグを狩に行ったんだ。

 そして狩に行った場所で、フェーンと俺、そちらが早く3匹のミートフロッグを狩れるか競争する事になり。結果は俺の勝利に。何でだろう? なぜかその時もフェーンは、ミートフロッグにバカにされていた。

 リルは勝った俺に大興奮。それからは更に俺に懐いてくれて。いつの間にか俺の事を。スッケーパパと呼ぶようになったんだ。

 ところが1年前。フフリの家族が属している、フェーンの群ではなく、別のホワイトウルフの群れが住んでいる森が、人間達の攻撃を受けているという情報が入り。
 フェーンとフフリ、そしてフェーンは率いている群全員で、フフリの家族や群れを助けに行く事に。
 
 だけど体が少し大きくなったものの、まだそんなに力がないルリを、連れて行くのは危ないって話しになって。ならこの街で1番懐いている俺に、リルを任せたいとお願いされ。それから2人で暮らしているんだ。

 あれから1年、そろそろ帰ってくる頃だと思うけど、フェーン達が帰ってくるまで、しっかりとリルを守らなくちゃいけない。そして守るだけじゃなくて、大きく育つように、たくさんご飯を食べさせてあげないと。
『今日は席空いてるかなぁ』
 
『どうだろう。ジェラルドさんのおかげで、いやせいで、時間がずれたから。もしかすると空いているかもしれないな』

『いつもいっぱい。なかなか座れない』

『もうすぐもう1つ大食堂ができるから、そうすれば今よりは混雑しなくなるはずだ。それまでもう少し我慢だな』

 大食堂は大人気だから、いつもかなりの行列なんだよ。それにここに来るお客さんは、地球と同じようなサイズの人間ばかりじゃない。1階の天井よりも背が高い巨人族も来るし、大型魔獣も来る。

 だから大食堂はなるべく広く作ったはずだったんだけど、それでもいつもぎゅうぎゅうなんだ。どのくらいといえば、学校の体育館6個分くらいか。

 それでも入りきれないような大型魔獣達には、施設の隣にそういった大型魔獣達がゆっくりできる広場を作ってあって。そこでご飯やできる限りのサービスを行っている。今だとアスピドケロンのアースが遊びに来てたな。
 
 大型の魔獣が遊びに来たい時は、アマディアスさんに連絡をくれれば、アマディアスさんが転移の魔法で、ここまで連れてきてくれる事になっている。
 巨体で移動されたらな。途中で敵対している人々に襲われるかもしれないし、本人が周りの物を破壊しながら、移動する可能性があるからだ。

 魔獣達の連絡手段は色々あるけれど。同じ種族で、テレパシーで連絡を取り合ったり、他の空を飛べる魔獣や生き物に頼んで連絡を取ったり。

 まぁ、情報が素早く回るんだよ。そのおかげか、遠い所からもここへ遊びにきてくれる魔獣達がたくさんいる。大きい魔獣だけじゃなく、遠くで移動の大変な魔獣は、アマディアスさんの転移魔法を使わせてもらっているぞ。

 そしてこれが、施設を建築している時にアマディアスが言っていた、絶対のこれくらいの広さが必要になる、に繋がるんだけど。
 これだけ大型の魔獣が来るんだから、普通サイズの施設を作っていたら、今頃施設にはお客さんが入り切らずに、結局は増築することになっていただろう。

 アマディアスさんはすぐに噂が回って、反応が良かったから、絶対にこういう風な事になる、と予測して作ってくれていたんだ。アマディアスさんには本当に感謝だ。
 ジェラルドさんは話しを聞いて、ただ単に楽しそうだから大きく作ったんじゃなかったのか? ガハハハハッ!! と言っていたけど。

『あっ! スッケーパパ、空いてるよ!』

『本当だ。これならゆっくりご飯が食べられそうだ』

 まず大食堂に入ったら、ご飯を受け取るために厨房の方へ。厨房のカウンターの所に料理が並んでいるから、好きな料理を取ってお盆に。もし食べたい料理が置いてない場合は、その場で注文すれば、すぐに作ってもらえる。

 そして最後に飲み物を取ったら、店員さんの所へ。そこでこの施設に入る時に配られるカードに、値段を書いてもらって。それが終わったら空いている席へ。席は決められていないから自由に選べるぞ。

 最初に配るカードだけど。この施設では、何かを買ったり食べたり、お金を使った場合は。全てこのカードに、使った金額を書いてもらうようにしていて。
 施設の入り口には、ホテルのフロントのような場所を設置していて。来た時にそこでカードを受け取り、施設から出る時はフロントにカードを提出。受付の人がカードに記載されている金額を確認して、お客さんはその金額を受付に払い、施設から出る。

 というのが一連の流れだ。それぞれ個々で、お金を払って貰っても良かったんだけど。まとめてお金を受け取った方が、お金の管理をする人達が楽かなと思い、そういうシステムにした。それぞれ別々にお金の整理をして、それを集めた後また確認じゃ面倒だからな。

 俺は風魔法を使って、自分のお盆を浮かせ、リルのお盆は俺が持ってやる。まずはリルのご飯からだ。

「おう、スケ、今からご飯か?」

『はい。ちょっと面倒事がありまして』

「あれだろ。ジェラルドだろう? ここまで話しが回ってきてるぞ」

『相変わらず、そういう話はすぐに広まりますね』

「まぁ、ジェラルドのことだからな。みんなまたかって感じで、どんなことをしたのか見に行こうって、出て行った奴もいたぞ」

『別に見せ物じゃないんですけどね』

「はははっ、みんなジェラルドの失敗を面白がってるからな。で、今日はどうする?」

『ええと、まずリルのが……』

 今話しているのは大食堂で働いてくれている、料理長のカルロスさんだ。元冒険者で、国から直接依頼を出されるほどの、かなりの実力者

 だけどその国に嫌気がさして、魔王と勇者が街を作ったと聞き、すぐにこの街へ移住。最初は冒険者活動をしていたけれど、俺の料理の話しを聞いているうちに、料理人目覚め。今ではここで料理長をしてくれている。

 勿論この世界の食材は、地球とは違うけど、似ている物もたくさんあって。日本食や洋食、色々な料理の話しをみんなにしていたんだよ。前に本で読んだ事があるなんて言ってさ。前世で食べていたとはいえないから。

 だからこの大食堂には、この世界の料理だけじゃなく、地球の料理風の物も用意してある。そして勿論大人気だ。

『良い匂い!! 早く食べたい!!』

『待ってくれ、すぐに俺のを選ぶから』

 リルのをご飯が揃うと、俺は山積みにしてある、ある物の方へ向かった。
『スッケーパパ、今日は何色?』

『そうだな、今日は茶色かな。濃い茶色とちょっと濃い茶色だ。それと『骨崩れない』』

『う~ん、ちょっとは分からない。でも最初はリル選んで良い?』

『ああ、良いぞ』

 俺達が来たのはたくさんの石が、簡単に色分けして置いてある場所だ。何で食堂の料理を受け取る場所に、そんな沢山の石が置いてあるのか。それはこの石が、俺達がスケルトンや固形の食べ物を食べられない魔物達のご飯だからだ。

 スケルトンがご飯? と思うかもしれない。だけどこれは本当に俺達のご飯なんだぞ。勿論最初からこの世界に、俺達のような骸骨や、生身の肉体を持たない魔物達に、ご飯なんかあるわけがなかった。
 
 が、何を言おう、この石を発見し、これを俺達のご飯にしたのは誰でもない俺である。

 数年前み争いに巻き込まれて、記憶を取り戻した後、俺は骨がボロボロの状態で動いていた。何でそんな状態で歩いていたか。自然に回復するのを待つしかなかったからだ。
 治癒魔法が使えない弱いスケルトンとって、自然に漂っている魔力を少しずつ吸収する事でしか、体を治療することができず。だからあの時も自然に治るのを待っていたんだけど。

 ただあの時はいつもと違う事が。フラフラと歩いていたら、ある石から魔力が漏れている事に気づいたんだ。今までにそんな石は見たことはなく、その辺に落ちている、ただの石だったはずの石からな。
 
 そしてよくよく周りを注意深く見てみれば、魔力が盛れてる石がそこら中に転がっていて。更に見つめれば、目が慣れてきたのか、どんどんその溢れている魔力がしっかりと見えるように。

 何だこれ? そう思った俺はその石を調べてみることに。勿論用心しながら手に取ったさ。争いの巻き込まれて散々な目にあったのに、そして何とか助かったのに。変な石を触って、また変な事になりたくなくったからな。

 が、石を手に取っても、爆発するとか魔力のせいで更に体がボロボロになるとか、変なことが起こる事はなく。ふぅ、と肩を撫で下ろす俺。だけどすぐに不思議な感覚に襲われた。
 こうなんか、魔力が俺の中に入ってくるような、力が湧いてくるような、そんな感覚がしたんだ。そして思った事。この魔力、吸収することができんるんじゃ? だった。

 いやさ、何となくだけど、魔力を自分の体に取り込む事が、出来るんじゃないかと思ったんだよ。すぐに俺は試してみることに。

 俺達スケルトンは時々、自然以外で体力を回復させるって言ったけど。もしも近くに魔族が居てくれた場合には、魔族から魔力を分けて貰い、それで体の維持もしていた。そう、あくまでも近くに居てくれた場合だけだけどな。

 だけどそのおかげで、魔力を取り込むのには慣れていたから。だからその感覚で、石から魔力を取り込めば良いんじゃ? って。

 そしてその結果は成功だった。すぐに石から溢れる魔力が俺の方に流れて来て、すんなり体に取り込まれたんだ。そしてすぐに変化が。ボロボロだった骨は回復し、それどころか体力まで回復したんだよ。

 まさか石の魔力を取り込んだだけで、完璧とまではいかなかったけど、ほぼ完璧に体が回復するなんて。

 と、体が回復した事に驚いた俺だったけど、それ以上に驚くことが起きたんだ。魔力を体に取り込んだ瞬間、ある感覚が俺を襲ったんだ。何とか魔力から味かしたんだよ。
 勿論魔力に味なんかあるわけなく、スケルトンの俺が味なんか分かるわけないから。本当に味の感覚がしただけだけど。

 最初に感じた味はホットケーキ味だった。まさかのホットケーキだ。俺は嬉しさのあまり、その場でどれだけ喜んだ事か。
 味というものを味わったのはいつぶりだったか。なにしろスケルトンとしてして生きてきて、歳なんて数えていなかったからな。だからどれだけそれが嬉しかった事か。

 もしもあの時その場に誰かがいたら、俺は完璧に不審者ならぬ、不審スケルトンだっただろう。石を持って、いや石を掲げて泣いて喜んでいたんだから。

 と、まぁ、その時の俺の様子は置いておいて。それから俺は街へ向かう道中、色々な石の魔力を取り込んでいった。この時の俺は、嬉しくて楽しくて、魔力を吸い取ることが止まらなかったよ。だって味だぞ? 止まるわけがない。まぁ、時々ハズレもあったけどな……。
 そして俺は魔力を取り込むだけでなく、魔力を取り込んだ後の石はどうなるのかも確認をした。だって取り込んだ後に、その石に魔力が溜まらなければ、1回限りの食べ捨てになってしまう。

 確かにそこら中に石はあるけれど。もしも他の魔物が俺みたいに、この石のことに気づいて魔力を吸い取ったら? いつかは石がなくなってしまうからな。

 だから確認したんだ。そして確認して分かったこと。それは2週間もあれば石に最低限の魔力が溜まり、また魔力を取り込むことができる、という事だった。2週間よりも長くそのままにしておけば、どんどん魔力は増え続け、より多くの魔力を取り込むことができた。

 また味に関してだけど、これが本当に最高で、色々な味の石があったんだよ。まず石の色によって、味の種類が分かれていて、赤っぽい色だとミートソースの味だったり、黒だと醤油味だったりと。地球での料理の味で分けられるのもあったし。
 肌色の石で、これはバナナの味か? と魔力を取り込むと、桃の味がしたりと。全然違う時もあり、なかなか面白かった。

 それだけじゃない。ミートソース味って言ったけど、ただのミートソースじゃなくて、スパゲッティだったり、グラタンだったりピザだったり、リゾットだったりと。取り込む事に慣れてくると、その物の感覚まで分かるようになってきて。
 まぁ、バリエーションがいっぱいで。ちょっとした石の色の変化で、色々な味を楽しむことができたんだ

 だから大食堂を作ってもらった時、俺は師匠やアマディアスさんやジェラルドさんに、この石の話しをした。せっかくの大食堂。こういう石があるんだけど、固形の物を食べらい人達のために、食堂に入れても良いか、ってね。

 すると俺の施設なんだから好きにしたらしい、そうみんなが言ってくれて。だけど、やっぱり石に気づいていたのは俺だけみたいで、最初師匠達は本当にそんな石があるのか? そして俺のように魔力を取り込むことができるのか? と疑問に思ってもいた。

 だから俺は3人に、実際に石を見てもらう事に。そうしたら3人にはやっぱりただの石に見えたらしくて。本当なのか? と疑われてしまった。

 だけどそこはさすが師匠とアマディアスさんというか。これはそういう石だと認識して、かなり集中して石を見てみる事1時間。ついに微かだけど石から魔力が出ているのを見ることができて。最終的には普通に見えるまでに。

 ジェラルドさんはそれから何時間も見ていたけど、結局見ることはできずに。魔王や師匠が魔力を取り込めるかどうか、実験を始めたのを見て、とりあえず自分もって。
 そうして師匠とアマディアスは、何の問題もなく魔力を取り込むことができ。ジェラルドさんは……。魔力が分からないのに、何故か魔力を取り込む事には成功して。そうし魔力を取り込んだせいなのか、それからは突然石の魔力が見えるように。

「やっぱり実践した方が早いって事だな」

 そうジェラルドさんが言うと、アマディアスさんに、これだから脳筋はと言われていた。

 と、こんな風に石のことを分かってもらえて、その後はアマディアスさんの部下や、ジェラルドさんの仲間にも試してもらい。他の様々な人々にも試してもらった。

 その結果、力が強い人達には時間を掛ければ、石から出ている魔力が見えるように。最初は分からなくても、ジェラルドさんみたいに魔力に触れる事によって、見えるようになったり、後は結局魔力は見えないけれど、魔力だけは取り込めると。

 こんな風に見える見えないはあるものの、みんな魔力は取り込めるってことで、大食堂にこの石を置く事に決まった。その名も『ご飯石』だ。ちなみにみんな、俺みたいに味を感じることができたぞ。
 まぁ味と言っても、元々の味を知らない人達は、まずは吸い取ってみて。少しずつ自分の好みの石を見るけるって感じだけだな。

 こうしてご飯石のおかげで、ここへ遊びに来るスケルトン達も、生身の体を持たない魔物達も、この大食堂へ来られるように。なにしろこの街は、様々な種族が集まる街だから、スケルトンや、生身の肉体を持たない魔物もいるわけで。

 みんな楽しみにこの施設の来てくれているのに、俺達だけ大食堂に入れないなんて、つまらないだろ? だから本当に良かったよ。みんな自分の好きな味を見つけて、楽しんでくれてさ。

 そして今日の俺のお昼は、カレー味のご飯石だ。それと麦茶味のご飯石な。ご飯石にはご飯だけじゃなく飲み物の味もあるから、ご飯に丁度いい。
 どちらも茶色のご飯石なんだけど、微妙に色が違う。俺はそれをしっかりと見分けられるから間違う事はない。他のみんなは時々間違えて、あれ? と石を取りに戻ったりするけど。

 まさか地球じゃない別の世界に転生して、スケルトンとして生きてきて、カレーを味わえるとは思っていなかった。

『茶色、茶色♪ う~ん、どの茶色? これかなぁ、あっちの茶色かなぁ。えっと、えっと……、これ!!』

『残念、その茶色じゃないぞ』

『間違い!! 失敗しちゃったぁ。えっと、えっと……、これ!!』

『ははっ、それも間違いだな』

『これも違う? あれぇ?』

 ルリは俺のご飯石を選ぶのが日課になっている。ゲーム感覚で面白いらしい。それと俺にご飯石を取ってあげたいんだってさ。

 今日はジェラルドさんのせいなのかおかげなのか、大食堂が1番混んでいる時間帯を過ぎていて空いているし。俺達の後ろに誰も並んでいないから、ゆっくり選ばせてやれる。混んでたら選ぶどころじゃないからな。

 リルが石を選んでいる間に、俺は『骨崩れない』の石も手に取った。この石も俺が見つけたんだけど、ご飯石と同じように魔力が出ている石で。だけど全部が灰色の石だ。そしてその石の魔力を取り込むと、骨が丈夫になって、骨が崩れにくくなる事が判明して。

 だからこの石も随時大食堂に置いてある。俺がこの石を見つけたことで、スケルトン仲間からかなり感謝された。自分達の寝ぐらに帰る時、買って帰るスケルトン達も。

 あっ、ちなみにお金を持っていない、魔物達や魔獣、精霊や妖精達が、もし何か欲しければ。時々でも良いから、物々交換してもらっている。他の食材を持ってきてもらうとか、装飾品を持って来てもらうとかな。

 ただそれもできない人達には、俺がこの街に来た時同様、アマディアスさんやジェラルドさん達が、その人達のためのお金を出してくれている。

『スッケーパパ、これ!!』

『正解だ!! 今日は早く見つけられたな、凄いぞ!』

『えへへ~♪』

 混んでいる時には、中々石を見つけられなくて諦める事が多いリル。空いている時にかぎって、何故か早く見つけられ、今日もすぐに見つけた。

 そして全部のご飯を受け取ると、俺達は空いている席へ。ジェラルドさんのせいで遅くなったが、やっとお昼ご飯だ。
 ご飯を食べた後、俺はリルを託児所に送り、自分の仕事へと戻った。もちろん午後もマッサージだ。

 託児所へ行くと、もうみんなお昼ご飯は終わっていて、遊んではいたんだけど。

『まおうせんせぇ、おはなしまだぁ?』

「おやつと、おはなしぃ」

『おひるねは……、あんまりぃ。でも、おはなしききたい』

「おはなち、おもちろい?」

「うん、おもしろいよ!! だってゆうしゃさまのおはなしだもん!!」

 と、ジェラルドさんのやらかし話しを聞きたい子供達は、遊びながらアマディアスさんに聞いていた。その姿に思わず笑ってしまったよ。

 この託児所では、この街に住んでいて、両親が外へ仕事へ行くために、家で1人になってしまう子供達や兄弟を預かっている。娯楽施設には関係ない施設かもしれないけれど、でも街には必要な物だって、俺が師匠達に話して作ってもらったんだよ。

 師匠やアマディアスさんにジェラルドさんは勿論のこと。森に住んでいる危険な魔獣が襲ってきても、外から敵対する人々に攻撃されても。長くて10分、短い場合は1分もかからずに、解決してしまう人達がたくさん住んでいるから、心配はないけど。

 でももしかしたらって事もあるだろう? 『絶対安全』の絶対なんてないからな。限りなく絶対に近いけどさ。

 だからもしもこの街に危険が迫った時に、もしも両親が揃って、外へ仕事に行ってしまって、誰も子供達の面倒を見てくれていなかったら? 
 周りの人達が気づいて守ってくれるかもしれないけれど、どうせならみんなで集まって貰って、全員一気に避難できた方が良いんじゃないか、そう思ったんだよ。

 そうすれアマディアスさんが転移魔法で、安全な場所へ避難させたり、他の人達や魔獣が、まとめて避難させてくれるはずだ。大きな魔獣にみんなが乗れば、一気に避難できるからな。
 
 そして俺の話しを聞いた師匠達は、それは良い考えだって、すぐに託児所を作ってくれて。街のみんなにも宣伝してくれたんだ。

 するとこれに両親は大喜び。そのため託児所は毎日子供達でいっぱいで。あまりにいっぱいだから今、2つ目の託児所を作っている最中なんだよ。来月完成予定だ。

 と、なんでこの施設の中なのか? それは勿論、ここには楽しい物がいっぱいだからだ。みんな両親と離れて寂しいだろうけど、少しでも楽しんでもらえたらと思ってさ。

「「「ぜんせぇ、まだぁ?」」」

『『『はやくおはなしぃ』』』

「はぁ、仕方がありませんね」

 子供達のおねだりに、アマディアスさんは耐えられなかったのか、お昼ご飯の片付けが済んだら、話しをすると約束していた。

 魔王だと、世界では恐れられているけど、子供がとっても大好きなアマディアスさん。だから子供達のお願いには弱いんだよ。お願いされるとすぐに許してしまう。

 だから魔王の側近の1人、託児所で働いてくれているホルデンに。甘過ぎます、そんなに甘やかせて、将来我儘に育ったらどうするんですか! と怒られている。今日は別の仕事に行っていて居ないから良いけど。居たら怒られていただろうな。

 こうして俺はリルと託児所で別れると、すぐに自分の店舗へ。午後は何事もなく時間が過ぎていき、ノーマンがしっかりジェラルドさんを見張っていると報告がきて、しっかりと自分の仕事をする事ができたよ。

 俺の所では10人のマッサージ師が働いてくれている。俺が教えたマッサージ師もいるし、師匠の所で働いているマッサージ師に習って、うちへ来た人も。どちらかが忙しい時は、お互いに人を送って助け合っている。

 それからこの世界には日本と同じような季節があり。花が咲き始める季節、暑い季節、世界が色づく季節、寒い季節の4つの季節が。順番に春夏秋冬って感じだ。
 そして1年は12ヶ月でまとめてあって、1ヶ月30日。その30日も、6日を1週間としていて。5週間で1ヶ月となっている。

 こうやって一応きちんと季節と日数は決められているのだが、休みっていうものがなくて。みんな好きな時に休むから、ある店に行ったら突然の休みだったなんて事が日常茶飯事だ。

 だけど俺的には、なるべくたくさんの人に利用してもらいたいし、働いている人達には休みを取って、しっかりろ休んでもらいたいから、順番に決まった日に休みを取ってもらっ
ている。他の従業員達も同じだ。ちなみに今日は4人休みだ。

 マッサージは基本、朝に予約を取ってもらう事になっている。だけど急なお客さんも大歓迎で、少し待たせることになってしまうけど、予約の人達の合間にマッサージをしている。今日は予約も、急なお客さんも多くて、ほぼフル回転って感じだった。
 
 しかもここは24時間営業なため、みんなにはそれぞれ働ける時間を先に聞いてあって。朝と夜とに分かれて働いてもらっている。
 ちなみに時間は地球と同じ、1日24時間、0時から24時まで。これは地球と変わらなかった。

 俺の担当のお客さんのマッサージが終わると、ちょうど18時の鐘が鳴り。今日の俺の仕事は18時までだから、これにて仕事は終了。

 こうして俺は後のことを任せて、リルを迎えに一応託児所へ。まぁ、毎回こんな感じかな。時々残業もあるけど、だいたいこんな感じだ。さて、リルは託児所に居るかな?
 託児所へ着き中を覗けばリルは託児所にいて、託児所の子供達は、お昼の半分くらいの人数になっていた。

『スッケーパパ!!』

『お待たせリル。アマディアスさんお疲れ様です』

「お疲れ様です。午後はどうでしたか?」

『午後は何もなく、いつも通りの仕事ができました。ジェラルドさんも静かにしていましたしね』

「そうですか」

『リル、何処にも行かなかったのか?』

『うんとねぇ、ワタワタを食べに行った!!』

『そうか、美味しかったか?』

『うん!!』

 何処へも行かず、託児所に居たのかと思ったら、しっかり遊びに行っていたらしい。ワタワタは綿飴みたいなお菓子で、遊技場とお菓子売り場に置いてある。

「今日はこのまま?」

『はい、リルが露天風呂に行きたいみたいで。これから露天風呂に行くつもりです。子供達の方は?』

「後2人ほどお迎えが来ますが、残りは泊まりです」

『そうですか。では子供達のこと、よろしくお願いします』

「勿論です。私がしっかりと面倒を見ますよ」

 遠出で両親が戻って来られない場合は、このまま施設にお泊まりすることになっている。他のお客さんもそのまま泊まったり、日帰りで遊びに来たり色々で。ここは泊まる施設もしっかりとあるから問題はない。かなりの人数が泊まれるんだぞ。

 アマディアスさんに挨拶をして、子供達にも挨拶すると、俺とリルは露天風呂へ向かった。向かったのは魔獣、魔物専用露天風呂だ。

 露天風呂は種族関係なく入れる混浴風呂。そこそこ大きい魔獣達が入ると、どうしても浴槽を深くしなければいけず、地球の人達と同じようなサイズの人達が入るのは大変だからと。そういう人達だけがゆっくり入れる露天風呂。

 とっても小さい、手のひらサイズの精霊や妖精達、小さな魔獣達が入れる露天風呂に、子供達専用の露天風呂。そして魔獣、魔物専用の露天風呂がある。それからやっぱり男女分けられている方が良い人達もいるから、男女別の露天風呂もあるぞ。

 みんな自分で選んで、好きな露天風呂に入ってもらうんだ。施設の中に用意されている大浴場も5つに分けてある。

 今日はルリが遊びたいって言っていたから、魔獣、魔物専用の露天風呂に行くことに。その方があまり迷惑をかけずに遊べるからな。

 露天風呂へ着くと、ささっと洋服を脱いで外へ。中には8匹の魔獣と5人の魔物が入っていて。すぐに俺に気づき、みんなが挨拶してくれた。
 そしてもちろんすぐに湯船には浸からずに、先に自分の体を洗った後、リルの体も洗ってやり。それからお風呂の中へ。

『ふぅ~』

『ういぃぃぃ~』

『ぷっ、ういぃぃぃ~って』

『うえぇぇぇぇ~』

『ははっ、どっちもおじさんみたいな声だな』

 まだ子供のリル。声は若いけど唸り声が完全におじさんだ。きっと毎回温泉に入るたびに、おじさん達を見ていて、それを真似しているだけなんだろうけど、どうにも若さと声が合わななくて笑えてしまう。

 と、そんな面白いリルを少しだけ見た後は、ゆっくり温泉に浸かっている場合じゃない。リルがスイスイ泳ぎ始めたのを見て、俺は今温泉に入っている人達に声をかける。

 一応ここの露天風呂と中の温泉は、泳いでも良い事になっている。ゆっくり湯に浸る人達ばかりじゃないからだ。川や池、海に住んでいる種族も来るし、それぞれ楽しみ方が違うからな。

 だから最初から、迷惑をかけない程度なら、何をしても良い事にしておいた。今のところ問題は起きていなぞ。
 最初からこの施設を使ってくれている人達は勿論。新しく来てくれたお客さんには、常連の人達が新しいお客さんに、しっかりとルールを教えてくれるからだ。

 それにもし何か問題を起こせば、すぐのアマディアスさんやジェラルドさんに、それ相応の対処をされるからな。みんなそれを分かっていて、問題は起こさない。いつも問題を起こすジェラルドさんが、何をいっているんだと思うかもしれないけどさ。

 が、それにしても今回は一応、他のお客さんに声をかけておかないと。なるべく魔獣や魔物がいない場所を選ぶが、リルが遊ぶとなると何が起こるか分からない。だから先にお客さんに声をかけておく。

『すみません、これからあの子が遊ぶんですが。なるべく離れた場所で遊びますが、もし迷惑な時は言っていただけると』

『ああ、リルが遊ぶのか。分かった』

『今日は入ってる奴は少ないから大丈夫だろう』

『それにリル1匹遊んだくらい。いつもはもっとバタバタしているんだから気にするな』

『ありがとうございます。リル! 向こうへ行って遊ぼう!!』

『うん!!』

『リル、気にしないで思い切り遊んで良いぞ』

『そうだぞ。こんなに空いている時はなかなかないからな』

『うん!! ありがとう!!』

 俺とリルは、お客さん達から離れた場所へ移動した。