え~と、今、何て言った? 俺の聞き間違いかな? ミルバーンって名前が聞こえたんだけど。まさかそんなわけはないはず。

 だってそうだろう? 最初に俺達が会った時の、俺達に対する態度。それになんか自分は面倒だから、他の人に任せれば良かったとか何とか、色々文句を言っていなかったか?
 しかもだ、最後もシャノンさんが言った事に対して、最後まで文句を言っていて、怒られてやっと納得したくらいだ。

 そんなミルバーンが、俺達と家族になる? どう考えたっておかしいし。ミルバーンと俺達が楽しそうに、家族として暮らしている姿が、思い浮かばないんだが。

 大体これって、ミルバーンが自分からやりたいって、絶対言ってないよな。今もすっごく嫌そうな顔してるし。
 それにさっき、最後に聞いた偉い人の言葉。里の決まり通りって。たぶん、何かがあるはずなんだ。ミルバーンが選ばれた面倒な決まりごとが。それのせいでミルバーンが俺達の家族に。

 いやさ、あんな場所へ転生させられて、危ないところをみんなが助けてくれて。何もできない、しかも突然現れた得体の知れない、エルフじゃない人間の赤ん坊を。このエルフの里で育ててくれるなんて。家族を作ってくれるなんて。本当に感謝しかないんだけど。

 相性っていうのがあると思うんだ。家族として、毎日顔を合わせて、これから一緒に暮らしていくんだから。な、相性は大切だろう? 当分の間は離れる事もないだろうし。もし俺が動けるようになったとして、ある程度、自分のことは自分でできるようになるまではな。

 家族ってさ、朝とか昼とか、まぁ、それぞれ大人は仕事とか、子供は勉強だったり遊んだりで。ずっと一緒に居るわけじゃないけれど。
 それでもどこかの時間でみんなが一緒になって。その日に何があったか、楽しい事、失敗した事、面白くなかった事。色々な話しをして、みんなでその話しで盛り上がるんじゃないのか?

 そんな盛り上がる家族は、仲良し家族じゃないといけないと思うんだよ。俺達みたいに出会いが険悪ムードで始まった関係のミルバーンより。ほらレイナさんやシャノンさんとか、他のエルフが良いと思うんだ。

 だけど、そんな俺の考えとは裏腹に、偉い人は話しを進めていこうとする。 

「これには皆が納得しているから、安心してこの里で暮らすと良い」

 いや、うん。本当みんなが納得してくれているのは嬉しんだけど。俺もそうだけど、そちら、若干1名納得していないだろう。

「この子達が暮らす家だが、今のミルバーンの家では手狭で、しかも他の家々からのかなり離れた場所に建っているため、こちらで子育てに最適な家を用意した。しかし急な事だったのでな、準備が整ってはいない。だから準備が整うまでは……」

 と、ここで、偉い人が話しているのを止めた子達が。そう、蝶達とスライムが、話しを止めたんだ。

 俺には相変わらず言葉は分からないけど、この場にいるエルフ達はみんな、何を言っているか分かるみたいで。突然どうしたんだ? どういう事なんだ? みたいな事を、みんながコソコソ話し始めた。それは偉い人も同じで、みんなに聞き返している。

「どうしたのだ? 何か問題があるのか?」

「******!!」

「いやそれは先程言った通り。里の決まりによって決めたのだが」

「******!!」

「いや、確かのそれも大切かもしれないが、私達には私達の……」

「******!!」

「そうなのか? いや、それはすまなかった。だが、それは最初だけではなかったのか? 確かにこの者は、何事にも倒しても面倒だと、やる気を見せないが」

「ふふ、凄いわね」

 みんなが何か話している時、レイナさんが少し笑って、俺に小さな声で話してきた。

「きっとまだ私達の話しを、貴方は理解できないでしょうけど。それでもこうして話しかける事が大切だものね。今、この子達は。何で勝手に決めちゃったの、僕達に一切相談なし? 里の決まりも大切かもしれないけれど、でも相性だって大切だよ。だってあのエルフ、僕達に色々文句を言ってきたんだよ。それに面倒だって、だらだらゴブリンを片付けていたんだから。ってお話ししているのよ」

 おおお!! みんなも俺と同じ気持ちだったんだな。そうだよな、やっぱりそう思うよな。良かった、俺だけじゃなかった。

 それからも色々と訴えてくれたみんな。ゴブリンを片付けた後も、僕達に何だその顔はとか、やっぱり最初は別のエルフが来た方が良かったって言った。シャノンさんが来てからも文句ばっかり。僕達の話しを聞いて文句ばっかり。

 最後もここへ来るって決まったのに、最後の最後まで文句ばっかり。そんな文句ばっかりのダメダメエルフ、僕達初めてだよ。なんて、みんなの文句が止まらなかった。

 そんなみんなの話しを、レイナさんが全て俺に伝えてくれて。僕はみんなの話に思わず、そうだそうだと、掛け声を入れてしまった。『だう!!』やら『ばう!!』だけどさ。でもレイナさんは俺のそんな様子に。

「まるで、そうだそうだって言っているみたいね」
 
 って。うんうん、そうだよレイナさん。俺はそう言っているんだよ。と、ここまできて、ついにあいつが口を挟んだ。

「ほらみろ。こいつらだって、俺のことを嫌がってるじゃないか。だから言ったんだ。里の決まりだろうが何だろうが、絶対に俺じゃない方がいいって。それに俺だって、こんな文句ばっかりの奴らの面倒を見るなんてごめんだ」

「******!!」

「******!!」

「******、******!!」

 今のは、最初から最後まで文句を言っているのはそっちでしょ!! 僕達は文句を言われたから、それから話しを聞いてくれなかったから、文句を言ったんだよ!! 文句を言われるような事、言ったのはそっちなんだから、僕達が悪いみたいに言わないでよ。

 そう言ったらしい。まったくその通りだ。と、話しが一瞬途切れた時だった。

「アハハハハッ!」

 ミルバーン達の後ろと、反対側の同じ位置に、女のエルフがそれぞれ立っていたんだけど。ミルバーンの方に立っていたエルフが、突然笑い始めた。