ん? ここは何処だ? 目を開けそのまま上を見つめれば、そこには知らない天井が。それからいつもよりも寝ている物の質が、体にフィットしているなと思い、思わず触ると手触りも最高で。
 
 って、それは良いんだよ。それよりもここは何処で、俺は何をやっていたんだっけ? それに何か体が思うように動かないし。
 と、俺が混乱していると、俺の顔に何かが乗ってきて、俺の様子を伺ってきた。それからそのうちの1匹が何処かへと飛び。

 そんな顔に乗ってきた何かを見て、俺は今までのことを思い出した。そして、ああ、やっぱり夢じゃなかったんだと再確認をし。

 俺の顔に乗ってきたのは、俺の下半身を綺麗にしてくれ、水と果物の果肉が少し入っているジュースを飲ませてくれてくれた。そしてゴブリンからも守ってくれた、とても優しくて強い、2匹の蝶とスライムだった。

 俺、あれからどれくらい寝ていたんだろう。俺は飛んで行かなかったもふもふの蝶とスライムをそっと触りながら、見える範囲で周りを確認する。どうも俺はある部屋で寝かされているらしい。

 おそらくここはエルフの里の、誰かの家なんだろう。シャノアさんって名のエルフが、エルフの里に俺を連れて行くって言っていたからな。
 それを聞いた俺は、とりあえずこれで大丈夫なんだと安心し寝ちゃったと。そして寝ている間にエルフの里へ到着。そして今はこの部屋で寝かされているって感じか?

 いやぁ、これから俺はどうなるか分からないけれど、本当に助かった。あのままじゃどうしようもなかったからな。もちろん蝶達やスライムが助けてくれて、それも本当に助かったけど。いつまでもあそこで動かないわけにもいかなかったしさ。

 さて、俺はこれからどうしたら良いんだ。声を出して、誰かを呼んだ方が良いんだろうか? それに透明な蝶は何処へ飛んで行ったんだ? みんなが揃ったら、改めて今までのことのお礼を言いたいんだけどな。さっきまでバタバタしていたから、今度はゆっくりとね。

 と、そんな事を考えていると、ドアの開く音が聞こえて、女の人の声も聞こえた。

「ありがとう、知らせてくれて」

 とても優しい声だった。そして声が聞こえてからすぐに、透明な蝶が俺の顔の上に戻ってきたと思ったら、俺を上から誰かが覗き込んできて。それはそれは美しい人で、元々そんなに動けないけど、思わず動くのを忘れて、じっとその人を見つめちゃったよ。

「起きたのね、具合はどうかしら」
 
 話しかけられて慌てて返事をする俺。

「ば、ばぶう!!」

「ふふ、元気はお返事ね。ここへ来た時一応は確認したけれど、もう1度体調を確認しましょうね」

 そう言うと俺をそっと抱き上げた綺麗な人。そうして何かを囁けば俺の体が少しだけ白く光って、でもすぐに消えると綺麗人が微笑んだ。

「問題ないわね、良かったわ。それじゃあまず、体を綺麗にしてしみましょう。きっと貴方が気づいたと分かったら、すぐに呼びに来るでしょうから」

 そう言ってささっと俺の下着を取り、ささっと浄化した後、ささっと新しいおしめみたいな物を俺に着せて、これまたささっと下着を履かせた綺麗な人。
 俺はこの短時間作業に、この世界へ来てから1番のダメージを受けてしまった。こんな綺麗な人に、俺の大事な部分を見せるなんて。しかも綺麗にしてもらうなんて。

 でもそんなガックリしてしまった俺の様子を見て、綺麗な人が慌ててしまい。

「あ、あら、どうしたのかしら? 大丈夫? どこか具合が悪いの? 今確認したばかりなのだけれど」

 違う、違うんだ。体は元気だよ。ただ精神にダメージが。いやいや、俺のダメージなんてどうでも良いんだよ。俺は綺麗な人が誤解して心配したままだと悪いと思い、急いで何とか元気だと伝える。名一杯の笑顔をして。たぶん?

「ばぁぶぅ!」

「だ、大丈夫なのね? でもさっきよりも声に張りがないような」

 ごめんなさい。俺が勝手にダメージを受けているだけだから、放っておいて大丈夫です。俺はもう1度答えると、今度は動かしにくい手もできる限り振って、大丈夫アピールをした。

「そう、大丈夫なら良いのだけれど。後でもう1度、ウェストンに診てもらった方が良いかもしれないわね」

 ふと俺は俺の顔にくっ付きぱなしの蝶達とスライムを見た。するとみんながやれやれという表情と仕草をしていて。
 何だよ、仕方がないだろう。こんなに綺麗な人と、今まで関わったことがないんだから。それなのにこの仕打ち。赤ちゃんだからしょうがないってわかっていても、くるものがあるんだよ。

 ちょっとしたゴタゴタの後、俺は綺麗な人に抱かれたまま、飲み物を飲ませてもらった。味は完璧に牛乳だった。温度は人肌の赤ちゃん用ミルクって感じだろうか。
 ミルクが入っている入れ物は、木でできれ入ると思われる小さなお椀で。これまた木のスプーンでゆっくり飲ませてもらったら、たまに垂らしてしまうことはあったが、しっかりと飲むことができた。

 それから背中をさすられ、ゲップをするとご飯は終わり。ちょうどその時ドアの向こうで、誰かを呼ぶ声がした。

「レイナ様、様子はどうだとクランシー様が。大丈夫そうなら連れてくるようにと」

「ええ、こちらは大丈夫よ。一応体調も問題ないわ。ミルクも飲ませたから今から行くわね。もしかしたら途中で寝てしまうかもしれないけれど。何せまだ生まれたての子ですもの」

「ではお伝えしてきます」

 綺麗な人の名前が判明した。レイナさんだ。レイナさんは誰かと話しを終わらせた後、すぐに立ち上がり。どこからか小さいバスタオルくらいのサイズの、とてもふわふわとした布を取ってきて、それで俺を包んだ。

「さぁ、行きましょう。たくさんの人が貴方を待っているけれど大丈夫よ。これからの貴方のこと事について、長からお話があるの」

「******」

「勿論貴方達もよ。これは貴方達にとっても大切な事だもの」

 俺の顔にくっ付いたままのみんなが、うんうん頷いた。みんなにとっても大切な事? 何だ? そして俺はこれからどうなるんだろう。