「インターハイと全国大会2連覇かぁ……やっぱり桜坂高校のサッカー部ってスゴいよな!」

「……あぁ、そうだな」

「あーっ、早く大地さんたちとサッカーがしたいっ! なぁ、ハルもそう思うだろ?」

「……うん、そうだな」


始業式が終わって、アオと教室へ向かう途中。

俺が適当に相槌(あいづち)を打っていると、いきなりアオが俺の肩をガッとつかんできた。


「ハルっ! お前、大丈夫かっ!?」

「なんだよ、急に……」

「だって、ハルがサッカーの話に食いつかないなんて、絶対変だしっ!」

「……っ!」


アオの言葉にハッとする。

サッカーの話になると、いつもテンションが上がるはずなのに。

言われてみれば、全然サッカーの話に集中できてなかった。


「もしかして、まだ気にしてんのか? 桜庭さんのこと」


アオに見透かされたようで、心臓がドキッと跳ねた。


「なんでわかったんだよ」

「桜庭さんを追いかけてからずっと浮かない顔をしてるから」


確かに、桜庭さんのことを考えていたけど……そんなに顔に出ていたとは思わなかった。


「桜庭さんと何かあったのか? 話ならいくらでも聞くけど」


アオがそう言ってくれたので、桜庭さんのことを話した。


「桜庭さん、今朝の絵を黒く塗りつぶすつもりだったんだって」

「えっ!? またどうして?」

「今、スランプ中だって言ってた」

「スランプ中!? でも、桜庭さんってさっき表彰されてたよな?」


驚きの声を上げるアオに、俺は静かに頷く。


「思うように描けないって……なんか、かなり悩んでる感じだった」

「そうなのか? 絵を見たかんじでは、そんなふうには見えなかったけど……」


俺もアオと同じことを思った。

絵のコンクールについてまったくわからないけれど、全国の大賞を取るということは、サッカーで例えると、全国大会やインターハイで優勝するようなものだろう。

もしそうならば、それだけ桜庭さんには絵は高く評価されているはずだ。


「だから、『桜庭さんには、絵を描く才能がある』って言ったんだ。でも『ただ絵を描くのが好きなだけで、俺が思ってる才能なんて持ってない』って、泣きそうな顔で言われてさ……」


励ますつもりだったのに、かえって桜庭さんを傷つけてしまった。


「なんて言ってあげたらよかったんだろう……」


桜庭さんに寄り添える言葉が言えたらいいんだけど……。

その答えは、いまだに見つからない。


「俺は、ハルが桜庭さんに言ったことが間違ってるとは思わない。ただ、何を才能と言うのかは人それぞれだから、ハルの言ったことが桜庭さんにとって必ずしも正解とは限らないのかもな」


――何を才能と言うのかは人それぞれ。


その言葉が、胸に突きささる。


俺たちで言うなら、サッカーが上手いと言われても、必ず試合に勝てるわけじゃない。
それどころか、結果を残せば残すほど、周りの期待はどんどん大きくなる。

そんなプレッシャーの中で「絶対に勝てるよ!」という言葉を浴びせられて、果たして本当に本領を発揮できるのだろうか……。


いや、俺だったら焦ってミスばかり連発してしまうな――“あのとき”みたいに。


……そうか。

もし桜庭さんも同じような思いを抱えているとしたら――。

俺の励ましの言葉は、桜庭さんにとってプレッシャーになっていてもおかしくはない。


それに気づいた瞬間、後悔の波が押し寄せてきた。


「ああ……俺、桜庭さんにかける言葉、間違えてたわ」


自分の不甲斐なさに頭を抱えていると、アオが俺の肩をポンポンと叩いた。


「大丈夫だって。きっと桜庭さんもハルの気持ちをわかってると思うし。それに、ハルなら桜庭さんに寄り添える言葉を見つけれられる。だから、そんなに気に病むなよ」


アオのおかげで、気持ちが少し軽くなった。


「ありがとう、アオ」


きっと、今の俺では桜庭さんの力になれない。

それでも、俺は桜庭さんを応援せずにはいられなかった。