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本館を出るとすぐに桜並木が見えた。
地面には薄紅色の花びらが散らばっている。
ここは、今朝桜庭さんと出会った場所だ。
もうすぐ下校時刻だからなのか、誰もいない。
見当違いだったのだろうか。
肩を落としていると、突然激しい風が吹き荒れた。
周囲の桜の花びらが舞い上がって、一瞬、視界が桜の花びらで満たされる。
そして、風が止んで、視界が開けると――。
桜の光の中で、キャンバスに向かっている“ひとりの女子生徒”を見つけた。
絹のような艷やかでサラサラとした、色素の薄い髪が風に揺れている。
見間違えるはずがない。
やっと見つけた。
「桜庭さん」
俺が名前を呼ぶと、彼女はゆっくりと振り返った。