「……で、冬乃、聞いてる?」
「えっ、ああ、ごめん、うん、聞いてるよ」

 金曜日21時半。
 拓実と再開してから既に2週間が経過して、その間で3回食事を共にした。今日が4回目。

「そ、か。聞いてるならいいんだけど……」
「う、うん」
「だからさ、この後どうする? って話、なんだけど……」

 拓実の子犬みたいな目がきゅるりとわたしを捉える。下手からきているようで、そこには確かに確信的な何かが含まれている。
 やけにお洒落なイタリアンを予約してくれていたから、正直覚悟はしていた。
 これはきっと、うちへ来たい(というか、拓実と同棲していた家なのだけれど)という意思表示なんだろう。あの家に行ってもいいかどうか、始めに聞かれて断ったのが原因なのか、たぶん彼はわたしにすごく気を遣っている。
 5年も付き合ったというのにね。

「あー……そう、だね」

 目を泳がせる。
 金曜日。わたしの家の最寄りまで電車で3駅。家に着くのは22時過ぎぐらいか。色々と計画されている。
 わかってる。拓実だって早く答えが欲しいということは。
 結婚を前提にもう一度、と言われて。
 友達からなら、と答えたのはわたしだった。それは正直、シュン美少年の言葉を受けて、ということもあるのだけれど。
 あの5年間で上手くいかなかったことが、たった半年離れたわたしたちに上手く埋められるだろうか。そしてわたしはどうしてこの恋をすっぱりと切ることが出来ないのか。
 そんな思いで2週間過ごしたけれど、拓実の方は案外焦っていた。きっと彼の中では、わたしがもっとすんなりやり直す選択を取ると思っていたのだろう。
 拓実を見る。癖毛にきゅるんとした子犬のような瞳。特段整っているわけではないけれど愛嬌があって素直な性格。きっといい旦那になる。悪いところなんて殆どない。5年も付き合っていたのだからそんなことはわかってる。喧嘩別れでもなければどちらかに裏切りがあったわけでもない。
 今日のために新調したのか、見たことのない綺麗なスーツを着ていた。仕事終わりだからかもしれないけれど、髪型や小物もすべて整えられている。拓実にしては珍しい。
 それぐらい覚悟を持って今、彼はわたしに判断を委ねているのだろう。

「……じゃあ、うち、来る?」

 そう言ったわたしに、拓実は安堵したように息を吐いて、「やった、じゃあお言葉に甘える」と笑った。