◇
「冬乃さん、さっきからスマホ鳴ってますけど」
「え? うそ、全然気づかなかった」
「たぶん電話。2.3回はかかってきてるんじゃないですか」
ソファに座って映画を見ていたからか、テーブル上に置いていたスマホの着信に全然気が付かなかった。パソコン作業をしていたシュンくんには邪魔になっちゃったかも。悪いことしたな。
平日21時半とはいえ、仕事の着信だったら折り返しが必要だ。渋々映画を止めてスマホを手に取ったところで、思わず固まってしまった。
だって、表示されている名前を、上手く飲み込むことが出来なかった。
「……それ、もしかして元彼ですか?」
「えっ、」
「すみません、さっきから通知画面見えてたんで、名前見ちゃって」
「え、っと、」
だとしても、シュンくんに元彼の名前なんて言ったことがないと思うのだけど。
というかそれより、もう一生会うことのないと思っていた元彼から電話がかかってくるなんて思いもしなかった。もしかしたら緊急事態、とか?
「すみません、実は数日前に会ったんですよね」
「えっ?」
「冬乃さんが仕事中に、1週間前くらいだったかな、午前中インターホンが鳴って」
「え、」
「出たら、そこに表示されてる名前言われて。まさか元彼だと思わなかったので、誰ですかって聞いたんですけど───」
「なんですぐ教えてくれなかったの?!」
そう言ってからハッとした。わたし、何をこんなに声を荒げてまで、動揺しているんだろう。
シュンくんは驚いたように一度目を丸くして固まって、それからふと息を吐いた。
「すみません、確かに非常識でした。あなたを尋ねてきたのに、俺はそれをわざと黙っていたので」
「わざと、って……」
「だってわざわざ、終わった恋を振り返るようなことしなくたっていいじゃないですか」
「そういう事じゃない、でしょ。急用だったかもしれないし、」
「だとしたらもっと早く電話なりメッセージなり送ってきてますよ。いきなり同棲していた家に来るなんて都合が良すぎませんか。それに、平日の午前中、冬乃さんが仕事だって事知ってるはずなのに」
「それは、そうだけど、でも、こうやって電話してきたってことは、わたしに何か用があるってことでしょ……?」
「冬乃さん、都合よく考えるのはやめましょうよ。別れた男が連絡してくるのなんて、ただの甘えと惰性です」
なによ。恋をしたことがないって、だれとも付き合ったことがないって、そう言っていたくせに、何でそんなことが言い切れるの。
それに、これは別れた元彼とわたしの問題だ。シュンくんは微塵も関係ない。だってきみとわたしは、付き合っているわけでも、好き合っているわけでもないのだし。
「……電話、折り返すんですか?」
何も言い返せないわたしを見かねて、シュンくんがそう尋ねてくる。伊達メガネの奥に潜んだ鋭い視線に喉が焼けそうだ。彼の視線は時々こわい。すべてを見透かされているようで。
「……うん。用件聞きたいし」
「そうですか」
「でも、やり直すとか……復縁するとか、そんなんじゃない、から」
「別に聞いてませんよ、そんなこと」
「かわいくない年下……」
「どうせ俺はかわいくないよ」
シュンくんがパタリとパソコンを閉じて立ち上がる。「なら、今日は帰りますね」と、またかわいくないことを言いながら。
「冬乃さん、さっきからスマホ鳴ってますけど」
「え? うそ、全然気づかなかった」
「たぶん電話。2.3回はかかってきてるんじゃないですか」
ソファに座って映画を見ていたからか、テーブル上に置いていたスマホの着信に全然気が付かなかった。パソコン作業をしていたシュンくんには邪魔になっちゃったかも。悪いことしたな。
平日21時半とはいえ、仕事の着信だったら折り返しが必要だ。渋々映画を止めてスマホを手に取ったところで、思わず固まってしまった。
だって、表示されている名前を、上手く飲み込むことが出来なかった。
「……それ、もしかして元彼ですか?」
「えっ、」
「すみません、さっきから通知画面見えてたんで、名前見ちゃって」
「え、っと、」
だとしても、シュンくんに元彼の名前なんて言ったことがないと思うのだけど。
というかそれより、もう一生会うことのないと思っていた元彼から電話がかかってくるなんて思いもしなかった。もしかしたら緊急事態、とか?
「すみません、実は数日前に会ったんですよね」
「えっ?」
「冬乃さんが仕事中に、1週間前くらいだったかな、午前中インターホンが鳴って」
「え、」
「出たら、そこに表示されてる名前言われて。まさか元彼だと思わなかったので、誰ですかって聞いたんですけど───」
「なんですぐ教えてくれなかったの?!」
そう言ってからハッとした。わたし、何をこんなに声を荒げてまで、動揺しているんだろう。
シュンくんは驚いたように一度目を丸くして固まって、それからふと息を吐いた。
「すみません、確かに非常識でした。あなたを尋ねてきたのに、俺はそれをわざと黙っていたので」
「わざと、って……」
「だってわざわざ、終わった恋を振り返るようなことしなくたっていいじゃないですか」
「そういう事じゃない、でしょ。急用だったかもしれないし、」
「だとしたらもっと早く電話なりメッセージなり送ってきてますよ。いきなり同棲していた家に来るなんて都合が良すぎませんか。それに、平日の午前中、冬乃さんが仕事だって事知ってるはずなのに」
「それは、そうだけど、でも、こうやって電話してきたってことは、わたしに何か用があるってことでしょ……?」
「冬乃さん、都合よく考えるのはやめましょうよ。別れた男が連絡してくるのなんて、ただの甘えと惰性です」
なによ。恋をしたことがないって、だれとも付き合ったことがないって、そう言っていたくせに、何でそんなことが言い切れるの。
それに、これは別れた元彼とわたしの問題だ。シュンくんは微塵も関係ない。だってきみとわたしは、付き合っているわけでも、好き合っているわけでもないのだし。
「……電話、折り返すんですか?」
何も言い返せないわたしを見かねて、シュンくんがそう尋ねてくる。伊達メガネの奥に潜んだ鋭い視線に喉が焼けそうだ。彼の視線は時々こわい。すべてを見透かされているようで。
「……うん。用件聞きたいし」
「そうですか」
「でも、やり直すとか……復縁するとか、そんなんじゃない、から」
「別に聞いてませんよ、そんなこと」
「かわいくない年下……」
「どうせ俺はかわいくないよ」
シュンくんがパタリとパソコンを閉じて立ち上がる。「なら、今日は帰りますね」と、またかわいくないことを言いながら。



