◇
早川シュンと名乗る美少年がうちに入り浸るようになってから早2週間─────
雨の日だけでもいい、なんて抜かしたのはほんの1日だけで、バイトが遅くない日はほぼ毎日うちへやってくるようになってしまった。(それを許しているわたしもわたしでどうかと思うんだけれどね)
この2週間でわかったこと。シュン美少年は見た目に反してかなり真面目な学生だった。『身分は明かさないと怖いと思うので』と、学生証とパスポートのコピーをわざわざ持ってきた時は流石に驚いたよね。律儀で真面目にも程がある。危なっかしいのはそっちの方だよ、と言いたくなるくらい。(わたしにストーカーだと言われたことをずっと根に持っているらしい)
あとは、賢くて写真を撮ることと本を読むことが好き。本人が最初に言っていた無口だというのも強ち間違いではないようで、わたしの家に来ても大抵本を読むか卒論を書いている。
嫌いな食べ物はピーマンと茄子。好物は今のところ不明。視力はいいくせにパソコンをいじる時だけブルーライトカットの伊達眼鏡をつけていて、その姿は少々グッとくる。なんせ顔がピカイチにいい。
それから、やはり人付き合いは得意ではないようで、大学にもバイト先にも友達と呼べるような人は殆どいなさそうだ。本人はそれに対して何か気にしているわけでもなく、『人と話すのがめんどくさい』の一点張り。コミニケーション能力が低い要因もよくわかった。
「……なんですか、さっきから俺の顔じろじろ見て」
「え、そんなに見てた?」
「はい、視線が痛いのでやめてください」
少し照れたように視線を逸らす姿を見て、不覚にも可愛いなとおもってしまった。ダメなんだって。
平日夜。今日も今日とてうちに上がり込んできたシュン美少年にご飯を食べさせた。(食べさせたというのはカッコつけた、近頃料理はほぼシュンくんがやってくれている。仕事から帰ってきてあったかい料理が並んでいることに、どうやらわたしは味を占めてしまったらしい)その後ダイニングテーブルでパソコンに向かっていたので、向かいに座って食後の読書兼ティータイムをしていたのに、いつの間にか彼のことをまじまじと正面から見つめてしまっていたようだ。
「あはは、ごめんごめん。やっぱ綺麗な顔してるなーって」
「冬乃さんも負けてないですよ」
「美人に産んでくれた両親に大感謝」
「引く手数多でしょうね」
「その言葉そっくりそのまま返すけど」
「興味ないですから、恋愛とか」
ああそう。じゃあきみが私に対して持っている感情は一体何に分類されているのだろう。
「シュンくんって本当に人のこと好きになったことないの?」
「まあ、多分」
「多分って曖昧な」
パソコンから目を離してうーんと考え込んだ素振りを見せたあと、ブルーライトカット伊達眼鏡の奥がわたしを捉えた。
「大事な子はいます、今までもこれからも」
「え、」
思わぬ言葉に耳を疑った。
たった2週間しか彼のことを知らないけれど、似ても似つかないような言葉だと思ったからだ。
「まあそれが恋愛だったかどうかは、わかんないんですけど」
「えーっと、あんまり話についていけてないんですけど……」
「幼馴染がいるんですよ、高校までずっと一緒にいて、大学は別です」
そういう形式的な説明を求めているわけじゃないんだけれど。
大事な子がいる、という事実に面食らったことに自分がいちばん驚いた。案外わたしはこのシュン少年に大きな興味があるみたいだ。
「……アイスでも食べます?」
「食べる」
わたしの反応が薄いことに気がついたのか、シュンくんが眼鏡を外して立ち上がった。こういう時はいやに気が利く。コミュ障のくせに。
家に入り浸っている自覚はあるようで、さすがに申し訳ないと思ったのか、シュンくんはよくこうしてアイスやらケーキやらを買ってくる。3回くらい食費も出そうとしてきたので、それはわたしが止めた。26歳独身シゴデキお姉さんの経済力を舐めるんじゃありませんよ。(ここらで明かしておくが、わたしはそこそこ高学歴のそこそこ有名企業総合職で、副業もしばしば。つまり同世代の中では金銭的にかなり余裕がある方だ)
「シュンくんってさあ、律儀だよね」
「律儀?」
「きみくらい顔が整ってたら、わたしみたいなバリキャリお姉さんのヒモになったっておかしくないよ?」
「ほぼヒモになっちゃってますけどね。はい、罪滅ぼしです」
ソファに移動したわたしにカップアイスを差し出される。罪滅ぼしだって。彼のワードセンス、なかなか良い。
ていうか、バリキャリお姉さんっていうところにツッコんでよね。
「そうか、これがヒモってやつ?」
「できればヒモじゃなく対等でありたいんですけど」
「でも学生からお金は取れないのよ、これはわたしの社会人としてのプライドね?」
「じゃあ、あと数ヶ月で同じ目線にしてくれんだ」
躊躇いもなくソファの横に座って、じっとわたしを見る。その目がいつも真っ直ぐだからまいってしまう。
抹茶のカップアイス。私がいちばん好きなやつ。
「……シュンくんのせいで甘いもの食べる機会が増えて太ったんだけど」
「いいんじゃないですか、ちょっと痩せすぎなので」
「自分の好きな体型でいたいんだよー」
「ああ、まあそれは確かにそうですね。次はカロリー見てから買ってきます」
そういうことじゃないんだって。多少強引だったとはいえ、きみを迎え入れているのはわたしなんだから、何か返そうだなんて思わなくていいんだよ。
この無駄に広い空間に誰かがいてくれる、それが当たり前ではないってことに、わたしは最近気づいたのだから。
「冬乃さんって、」
「うん?」
「別れた人のこと、どれくらい好きでしたか」
驚いて、思わずアイスを落としそうになってしまった。
まさかシュンくんからこんなことを聞かれるとは思ってもみなかった。
「……そんなこと聞いてどうするの」
「べつに、気になったので」
「どれくらいって言うのはさ、結構難しいよ? そもそもきみとわたしの大きさの定義は違うわけだしね」
「じゃあ定義を合わせましょう。俺だったら、0%が”無関心”、100%が”側にいる”、です。冬乃さんは?」
指先の熱でカップのアイスが溶けてしまわないか心配だ。わたしはいそいそとそれを口に含みながら、また小難しいことを言う大学生だ、と思う。
0%が無関心、100%が側にいる。
べつに人様の恋愛観にどうこう言うつもりはない。けれど100%の定義付けに、”側にいる”のみを発するのは少々淡白なんじゃない? いや、わかんないけどね。100%を考えたことなんて殆どないわけだし。
「”側にいる”って、それだけ? 100%なのに?」
「気になりますか、俺の意見」
「気になるって言うか……」
「言い方変えます、一応興味はあるんですね、俺の意見に」
調子が狂う。横から少しだけ嬉しそうな声を発するから。
「恋愛したことないのに、エラソーにそんなこと言うからでしょ」
「だからこそ、ですよ。誰かと時間を共有したいと思ったことが殆どない。80%が”共有”なのかもしれないですね。それを超越したら、側にいられるだけでいいのかなって」
「想像のなかで?」
「想像というか、予測ですかね」
「予測……」
「100%の愛情は、俺にとって黙って側にいることなのかなって」
あくまで予測なので、変わるかもしれないですけどね。と。自分の分のアイスを口に運びながら、愛情なんていう言葉を吐く美少年。そんなのきみには、まだまだ早すぎる話なんじゃないの。同時に私にとっても、だけど。
「わたしは、そんなの考えたことない」
「じゃあこの話は埒があかないのでやめますか」
「……でも、彼のことは勿論、好きだったよ。結婚するって、本気で思ってたし」
話が終わろうとしたところで、思わず、口をついてしまった。
カップのアイスはもうあと少しでなくなる。溶ければ水分と同列なのに、食べると無性に喉が渇くのは何故だろう。アイスクリームの舌触りに口内が水を欲している。
「まあ、あんなに泣いてましたもんね」
「あれ以来泣いてないから!」
「冬乃さんって強がりですよね」
「いいのよ、でもさ、こういうのも人生だし」
「そんなに好きだったのに、終わるって、よくわからないです。手放せるものなんですか?」
「手放すしかなかった、が正解かもね」
人と人の関係が終わる時なんて、意外にもあっけないものだ。もう一生会うことがないかもしれない。一度でも心を通わせた相手なのに、世界でいちばん遠い存在になってしまった。
手放したのか、手放されたのか。
終わったのか、終わらせたのか、終わらせられたのか。
恋と呼ぶにはあまりにも長期間で、愛と呼ぶにはあまりにも陳腐だった。
「もう一回会えたらどうしますか」
「きみって本当にデリカシーがないよね」
「だって、まだ好きなんじゃないですか? その人のこと」
「まあ、嫌いと言えば嘘になるけどさ。好きって、そんなにいいものじゃないよ。シュンくんが思ってるよりもっと残酷で、嫌なものだよ」
なくなったアイスのカップをローテーブルに置くと、シュンくんも同じように真似する。あとでゴミを片付けてくれるんだろう。もうそういう優しさにも慣れてしまった。
「好きっていう感情の捉え方が捻くれすぎてますよ、って俺は思いますけどね」
「シュンくんは恋をしたことがないから、恋愛に夢を見過ぎだよ」
「そうか。まあそう言われると、そうですね。経験したことないことに強くは言えないですから」
思いの外早く引き下がる。わたしも随分と意地っ張りな言い方をしてしまったかも。
「……今日も泊まってもいいですか?」
「律儀に毎回聞かなくていいよ、好きなだけいなよ」
「ありがとうございます」
週に3〜4回。もっと多いかも。こうやってうちにシュンくんがいることが、だんだんと当たり前になってしまっている。
早川シュンと名乗る美少年がうちに入り浸るようになってから早2週間─────
雨の日だけでもいい、なんて抜かしたのはほんの1日だけで、バイトが遅くない日はほぼ毎日うちへやってくるようになってしまった。(それを許しているわたしもわたしでどうかと思うんだけれどね)
この2週間でわかったこと。シュン美少年は見た目に反してかなり真面目な学生だった。『身分は明かさないと怖いと思うので』と、学生証とパスポートのコピーをわざわざ持ってきた時は流石に驚いたよね。律儀で真面目にも程がある。危なっかしいのはそっちの方だよ、と言いたくなるくらい。(わたしにストーカーだと言われたことをずっと根に持っているらしい)
あとは、賢くて写真を撮ることと本を読むことが好き。本人が最初に言っていた無口だというのも強ち間違いではないようで、わたしの家に来ても大抵本を読むか卒論を書いている。
嫌いな食べ物はピーマンと茄子。好物は今のところ不明。視力はいいくせにパソコンをいじる時だけブルーライトカットの伊達眼鏡をつけていて、その姿は少々グッとくる。なんせ顔がピカイチにいい。
それから、やはり人付き合いは得意ではないようで、大学にもバイト先にも友達と呼べるような人は殆どいなさそうだ。本人はそれに対して何か気にしているわけでもなく、『人と話すのがめんどくさい』の一点張り。コミニケーション能力が低い要因もよくわかった。
「……なんですか、さっきから俺の顔じろじろ見て」
「え、そんなに見てた?」
「はい、視線が痛いのでやめてください」
少し照れたように視線を逸らす姿を見て、不覚にも可愛いなとおもってしまった。ダメなんだって。
平日夜。今日も今日とてうちに上がり込んできたシュン美少年にご飯を食べさせた。(食べさせたというのはカッコつけた、近頃料理はほぼシュンくんがやってくれている。仕事から帰ってきてあったかい料理が並んでいることに、どうやらわたしは味を占めてしまったらしい)その後ダイニングテーブルでパソコンに向かっていたので、向かいに座って食後の読書兼ティータイムをしていたのに、いつの間にか彼のことをまじまじと正面から見つめてしまっていたようだ。
「あはは、ごめんごめん。やっぱ綺麗な顔してるなーって」
「冬乃さんも負けてないですよ」
「美人に産んでくれた両親に大感謝」
「引く手数多でしょうね」
「その言葉そっくりそのまま返すけど」
「興味ないですから、恋愛とか」
ああそう。じゃあきみが私に対して持っている感情は一体何に分類されているのだろう。
「シュンくんって本当に人のこと好きになったことないの?」
「まあ、多分」
「多分って曖昧な」
パソコンから目を離してうーんと考え込んだ素振りを見せたあと、ブルーライトカット伊達眼鏡の奥がわたしを捉えた。
「大事な子はいます、今までもこれからも」
「え、」
思わぬ言葉に耳を疑った。
たった2週間しか彼のことを知らないけれど、似ても似つかないような言葉だと思ったからだ。
「まあそれが恋愛だったかどうかは、わかんないんですけど」
「えーっと、あんまり話についていけてないんですけど……」
「幼馴染がいるんですよ、高校までずっと一緒にいて、大学は別です」
そういう形式的な説明を求めているわけじゃないんだけれど。
大事な子がいる、という事実に面食らったことに自分がいちばん驚いた。案外わたしはこのシュン少年に大きな興味があるみたいだ。
「……アイスでも食べます?」
「食べる」
わたしの反応が薄いことに気がついたのか、シュンくんが眼鏡を外して立ち上がった。こういう時はいやに気が利く。コミュ障のくせに。
家に入り浸っている自覚はあるようで、さすがに申し訳ないと思ったのか、シュンくんはよくこうしてアイスやらケーキやらを買ってくる。3回くらい食費も出そうとしてきたので、それはわたしが止めた。26歳独身シゴデキお姉さんの経済力を舐めるんじゃありませんよ。(ここらで明かしておくが、わたしはそこそこ高学歴のそこそこ有名企業総合職で、副業もしばしば。つまり同世代の中では金銭的にかなり余裕がある方だ)
「シュンくんってさあ、律儀だよね」
「律儀?」
「きみくらい顔が整ってたら、わたしみたいなバリキャリお姉さんのヒモになったっておかしくないよ?」
「ほぼヒモになっちゃってますけどね。はい、罪滅ぼしです」
ソファに移動したわたしにカップアイスを差し出される。罪滅ぼしだって。彼のワードセンス、なかなか良い。
ていうか、バリキャリお姉さんっていうところにツッコんでよね。
「そうか、これがヒモってやつ?」
「できればヒモじゃなく対等でありたいんですけど」
「でも学生からお金は取れないのよ、これはわたしの社会人としてのプライドね?」
「じゃあ、あと数ヶ月で同じ目線にしてくれんだ」
躊躇いもなくソファの横に座って、じっとわたしを見る。その目がいつも真っ直ぐだからまいってしまう。
抹茶のカップアイス。私がいちばん好きなやつ。
「……シュンくんのせいで甘いもの食べる機会が増えて太ったんだけど」
「いいんじゃないですか、ちょっと痩せすぎなので」
「自分の好きな体型でいたいんだよー」
「ああ、まあそれは確かにそうですね。次はカロリー見てから買ってきます」
そういうことじゃないんだって。多少強引だったとはいえ、きみを迎え入れているのはわたしなんだから、何か返そうだなんて思わなくていいんだよ。
この無駄に広い空間に誰かがいてくれる、それが当たり前ではないってことに、わたしは最近気づいたのだから。
「冬乃さんって、」
「うん?」
「別れた人のこと、どれくらい好きでしたか」
驚いて、思わずアイスを落としそうになってしまった。
まさかシュンくんからこんなことを聞かれるとは思ってもみなかった。
「……そんなこと聞いてどうするの」
「べつに、気になったので」
「どれくらいって言うのはさ、結構難しいよ? そもそもきみとわたしの大きさの定義は違うわけだしね」
「じゃあ定義を合わせましょう。俺だったら、0%が”無関心”、100%が”側にいる”、です。冬乃さんは?」
指先の熱でカップのアイスが溶けてしまわないか心配だ。わたしはいそいそとそれを口に含みながら、また小難しいことを言う大学生だ、と思う。
0%が無関心、100%が側にいる。
べつに人様の恋愛観にどうこう言うつもりはない。けれど100%の定義付けに、”側にいる”のみを発するのは少々淡白なんじゃない? いや、わかんないけどね。100%を考えたことなんて殆どないわけだし。
「”側にいる”って、それだけ? 100%なのに?」
「気になりますか、俺の意見」
「気になるって言うか……」
「言い方変えます、一応興味はあるんですね、俺の意見に」
調子が狂う。横から少しだけ嬉しそうな声を発するから。
「恋愛したことないのに、エラソーにそんなこと言うからでしょ」
「だからこそ、ですよ。誰かと時間を共有したいと思ったことが殆どない。80%が”共有”なのかもしれないですね。それを超越したら、側にいられるだけでいいのかなって」
「想像のなかで?」
「想像というか、予測ですかね」
「予測……」
「100%の愛情は、俺にとって黙って側にいることなのかなって」
あくまで予測なので、変わるかもしれないですけどね。と。自分の分のアイスを口に運びながら、愛情なんていう言葉を吐く美少年。そんなのきみには、まだまだ早すぎる話なんじゃないの。同時に私にとっても、だけど。
「わたしは、そんなの考えたことない」
「じゃあこの話は埒があかないのでやめますか」
「……でも、彼のことは勿論、好きだったよ。結婚するって、本気で思ってたし」
話が終わろうとしたところで、思わず、口をついてしまった。
カップのアイスはもうあと少しでなくなる。溶ければ水分と同列なのに、食べると無性に喉が渇くのは何故だろう。アイスクリームの舌触りに口内が水を欲している。
「まあ、あんなに泣いてましたもんね」
「あれ以来泣いてないから!」
「冬乃さんって強がりですよね」
「いいのよ、でもさ、こういうのも人生だし」
「そんなに好きだったのに、終わるって、よくわからないです。手放せるものなんですか?」
「手放すしかなかった、が正解かもね」
人と人の関係が終わる時なんて、意外にもあっけないものだ。もう一生会うことがないかもしれない。一度でも心を通わせた相手なのに、世界でいちばん遠い存在になってしまった。
手放したのか、手放されたのか。
終わったのか、終わらせたのか、終わらせられたのか。
恋と呼ぶにはあまりにも長期間で、愛と呼ぶにはあまりにも陳腐だった。
「もう一回会えたらどうしますか」
「きみって本当にデリカシーがないよね」
「だって、まだ好きなんじゃないですか? その人のこと」
「まあ、嫌いと言えば嘘になるけどさ。好きって、そんなにいいものじゃないよ。シュンくんが思ってるよりもっと残酷で、嫌なものだよ」
なくなったアイスのカップをローテーブルに置くと、シュンくんも同じように真似する。あとでゴミを片付けてくれるんだろう。もうそういう優しさにも慣れてしまった。
「好きっていう感情の捉え方が捻くれすぎてますよ、って俺は思いますけどね」
「シュンくんは恋をしたことがないから、恋愛に夢を見過ぎだよ」
「そうか。まあそう言われると、そうですね。経験したことないことに強くは言えないですから」
思いの外早く引き下がる。わたしも随分と意地っ張りな言い方をしてしまったかも。
「……今日も泊まってもいいですか?」
「律儀に毎回聞かなくていいよ、好きなだけいなよ」
「ありがとうございます」
週に3〜4回。もっと多いかも。こうやってうちにシュンくんがいることが、だんだんと当たり前になってしまっている。



