それからすぐに、会場の空気はざわついたものへと変化した。
「ご静粛に」
再びよく通る声で瑛がいうと、会場が静かになる。
「昴は、私が結婚前に恋し、失った女性との間の子供です。澪が昴を見つけ、私に会わせてくれました」
こうして瑛が語り始めた。
澪の母である真理亜と愛し合う前に、三神莉奈という女性がいた事。現在三神家はないのだが、その血を汲んだ女性との間の子供である事――人間との間に生まれた昴もまた人間である事を、包み隠さず瑛は語る。その声は聞く者を虜にせずにはいられないような響きを持っていた。昔から父は話がうまいと澪は知っていた。
だが、昴の前で、『人間』という語を出したのを聞き、既に吸血鬼であると話してあるのかだけが気になった。というのも、そのあたりから、昴が困惑したような顔をして瑛をチラチラと見るようになったからだ。しかし瑛に気にした素振りはない。
「――と、そういう事情があったのです。昴は、私の愛おしい長男だ。家督を澪に譲るのは変わりませんが、昴が私の長男である事に変わりはない。即ち、昴は西園寺家の血族だ。仮に何人たろうとも、昴を害する事があれば、仮に吸血するような事があれば、それは西園寺家を敵にまわすことだと心得てもらいたい」
きっぱりと瑛が言い切ると、その場に緊張感が溢れた。だが少しして、誰かが拍手をした。すぐにそれが、漣のようにその場に広がる。すると真剣な面持ちだった瑛が、両頬を持ち上げて満面の笑みに変わった。
「よかったな、子供に会えて」
「友として祝福するぞ!」
「おめでとう、瑛」
「西園寺様、本当によかった」
招待客達が、皆そのように声を出す。元々西園寺家と、瑛と懇意にしている者が多いのも手伝っているのだろうが、お祝いムードがその場に溢れた。するとひとしきり頷いてから、瑛が咳払いをする。
「もう一つ、報告がある」
そこで一度言葉を句切ってから、瑛は再び真剣な眼差しに変わる。
「【黒薔薇病】の【治療薬】――その開発の見通しが立っています。正式な発表は後日とするが、今後我々は、あの忌まわしき病に打ち勝つことが叶うかもしれない。いいや、きっと叶うだろう。愛する妻、真理亜を【黒薔薇病】で喪った私と、息子の澪だが――今回はその澪の力で、光明が見えてきた」
すると再び静かになった後、会場の視線が澪へと集中した。
そしてまた、拍手が一つ、二つと広がり始め、澪に喝采が送られた。
片目を細くし、澪は愛想笑いをする。父の派手な言い回しに、辟易した瞬間でもあった。
「ご静粛に」
再びよく通る声で瑛がいうと、会場が静かになる。
「昴は、私が結婚前に恋し、失った女性との間の子供です。澪が昴を見つけ、私に会わせてくれました」
こうして瑛が語り始めた。
澪の母である真理亜と愛し合う前に、三神莉奈という女性がいた事。現在三神家はないのだが、その血を汲んだ女性との間の子供である事――人間との間に生まれた昴もまた人間である事を、包み隠さず瑛は語る。その声は聞く者を虜にせずにはいられないような響きを持っていた。昔から父は話がうまいと澪は知っていた。
だが、昴の前で、『人間』という語を出したのを聞き、既に吸血鬼であると話してあるのかだけが気になった。というのも、そのあたりから、昴が困惑したような顔をして瑛をチラチラと見るようになったからだ。しかし瑛に気にした素振りはない。
「――と、そういう事情があったのです。昴は、私の愛おしい長男だ。家督を澪に譲るのは変わりませんが、昴が私の長男である事に変わりはない。即ち、昴は西園寺家の血族だ。仮に何人たろうとも、昴を害する事があれば、仮に吸血するような事があれば、それは西園寺家を敵にまわすことだと心得てもらいたい」
きっぱりと瑛が言い切ると、その場に緊張感が溢れた。だが少しして、誰かが拍手をした。すぐにそれが、漣のようにその場に広がる。すると真剣な面持ちだった瑛が、両頬を持ち上げて満面の笑みに変わった。
「よかったな、子供に会えて」
「友として祝福するぞ!」
「おめでとう、瑛」
「西園寺様、本当によかった」
招待客達が、皆そのように声を出す。元々西園寺家と、瑛と懇意にしている者が多いのも手伝っているのだろうが、お祝いムードがその場に溢れた。するとひとしきり頷いてから、瑛が咳払いをする。
「もう一つ、報告がある」
そこで一度言葉を句切ってから、瑛は再び真剣な眼差しに変わる。
「【黒薔薇病】の【治療薬】――その開発の見通しが立っています。正式な発表は後日とするが、今後我々は、あの忌まわしき病に打ち勝つことが叶うかもしれない。いいや、きっと叶うだろう。愛する妻、真理亜を【黒薔薇病】で喪った私と、息子の澪だが――今回はその澪の力で、光明が見えてきた」
すると再び静かになった後、会場の視線が澪へと集中した。
そしてまた、拍手が一つ、二つと広がり始め、澪に喝采が送られた。
片目を細くし、澪は愛想笑いをする。父の派手な言い回しに、辟易した瞬間でもあった。