夜明けを待つ赤星〔あんさつしゃ〕

「「よいちゃん!!」」

もう一度、2人が叫んだ。

「よいちゃんは、るうとみうを、、置いていくの?」

「お父さんとお母さんみたいに星になるの?」

「よいちゃんまで、、行かないで!」

「よいちゃん、、ずっと一緒って言ったじゃん!」

その2人の声で、夜雨は月光が亡くなった頃の出来事を思い出した。

◇◇◇

「私が、2人を守るから、、そばにいるから、だから、泣かないで。」

月雨も光雨も、お母さんがいなくなって泣き叫んでいた。

本当は、私も大声をあげて、、泣きたかった。

でも、、2人がいたから、泣かなかった。

私まで泣いたら、私たちを慰めてくれる人はいないから。

本当は、私も死にたかった。

なんて、この世は意地悪なんだろうって思った。

お父さんを殺され、お母さんは前を向いて歩いていたのに、好きな人はお父さんを殺した犯人で。

お母さんはただ遊ばれていただけだった。

そして、、お母さんも私たちの元から奪われた。

本当に、生きる希望を失くしかけた。

でも、月雨と、光雨がいた。

だから、死ななかった。

「私は2人と、、ずっと一緒にいるよ。」

と言って2人を抱きしめた。

◇◇◇

──そうだ、、。私は、2人と一緒にいるって、、約束した。誓った。

「よいちゃん。るうとみうは、、お姉ちゃんと一緒にいるっていうのが、生きる意味だよ。」

「よいちゃんと一緒にいるだけで、幸せだよ。それが生きる意味だよ。」

「よいちゃんのやることは、るうとみうと一緒に過ごすこと。」

「絶対に離れ離れにならないこと。」

「だって、、知ってるでしょ?大好きな人に、、置いてかれちゃう、気持ち。」

「もう会えないっていう気持ち。」

「もっと一緒にいたかったっていう、気持ち。」

「今すぐにでも会いたいっていう気持ち。」

「「知ってるでしょ?よいちゃんも。だから、置いていかないで。ずっと一緒でしょ?るうとみうはよいちゃんと離れたくない!よいちゃんは違うの?離れ離れになってもいいの?よいちゃんも、そうでしょ?」」

2人が泣きながら、夜雨に訴えた。

「私、、悪いこと、、したんだよ?そんな人がお姉ちゃんで、、嫌でしょ?」

夜雨のナイフを持つ手が震えている。

「悪いことをしたとしても、るうとみうのお姉ちゃんってことに変わりない!」

「血のつながった、、大切な大切なお姉ちゃんだよ!」

「誰かがなんと言おうと、胸を張って、るうとみうを1人で頑張って育ててくれたお姉ちゃんだって。」

「頑張り屋で優しくてカッコイイ、強い、大好きなお姉ちゃんだって、言うもん!」

「「大好きなお姉ちゃん、るうとみうと、、生きて!これから、、もっと幸せになろう!よいちゃんから、るうとみうは離れない。だから、よいちゃん!」」

しばらく夜雨は2人を眺めたあと、涙が頬を伝った。

夜雨はナイフを落とした。

夜雨に2人が抱きついた。

「ごめん、ごめんね、、。立派なお姉ちゃんって言われるように、、もっと頑張るから。もう、、こんなことしないから。ずっと、、一緒だから。」

2人を抱きとめた。

3人は涙を流しながら、でも、吹っ切れたような笑顔を見せていた。
──私の出る幕はやはりなかったようですね、、。

と心の中で呟き私は踵を返し、灯台を降りた。

「影!雨夜は?」

とこちらへ駆けてくる若い男がいた。

葉月(はづき)!どうして此処へ?」

夜雨とタッグを組んでいた男だった。

この件も夜雨と共に仕事をしていた。

「夜雨が心配で、、。今回の件、いつもより険しい顔をしていたし、様子がおかしかったので。連絡を取ろうとしても、取れなくなって。探していたんです。それで、夜雨は?」

前のめりになりながら葉月が訊いた。

「もう大丈夫です。今、灯台の上で妹たちといますよ。」

「よかった、、。」

大きく息を吐きながらそう言った。

「ところで、、どうして雨夜の本名を知っているんです?」

「え?!、、えっと、、訊いたので、、すみません、、。」

あからさまに顔を赤くして言い訳をしている。

──なんだ、妹たち以外にも、夜雨のことを大切に想っている人がいたじゃないですか、、。本当に、私の出る幕はないですね、、。

心の中で自嘲気味にそう言った。

「葉月、夜雨とはどうなんですか?」

「え?!えーっと、、まだ、、です。」

「しっかりしなさい。すぐ人に取られちゃいますよ。あと、、夜雨のこと、悲しませるようなことをしたら私が復讐しますから。」

「は、はい!」

敬礼でもするような勢いで返事をした。

「よろしい。」

──それにしても、葉月が夜雨のことを好きだったとは、、。そういえば、夜雨の様子がおかしかった頃、私に報告しに来たのも、、葉月だった、、。
夜雨の少し遅い青春を見るのも悪くないですね、、。

私は内心ほくそ笑んだ。

──私も、夜雨のこと、大切に想っていますからね。ずっと見守っていますよ。これからもよろしくお願いします。

灯台を見つめながら私は思った。
「生きるって、素晴らしいことなんだね。こうやって、2人と抱き合って温もりが感じられるから。2人から離れようとして本当にごめんね。もう何処にも行かないから。ずっと一緒にいるから。」

夜雨は2人の存在を確かめるように、抱きながら言った。

「「うん、ずっと一緒だよ!」」

「さ、一緒に、帰ろう。」

夜雨は2人と一緒に立ち上がった。

「あ、ちょっと待ってね。」

夜雨はナイフを拾った。

──影さんの言ったように、私にはもう必要のないものだ。そして、私の胸の中にある、復讐心も、、。
だから、、。

夜雨はナイフを海に投げ捨てた。

──私には、、もう必要ない。この両手には、2人の手があるから。

夜雨は右手と左手でそれぞれ月雨と光雨の手を握った。

「これからも、一緒に生きよう。」

自分自身に言い聞かせるように呟いた。

──お母さん、お父さん、私は、月雨と光雨と生きていきます。3人で、生きていきます。だから、見守っていて。

空に輝く星と月を見て、誓い願った。

その星は、嬉しそうに光っていた。微笑むように、3人の未来を照らしていた。




───

影の部屋に、新聞紙が置いてあった。

2つの記事が新たにスクラップされたのだった。

〈Z湾沖で男性の水死体発見。事件性は低いと見られる。元妻の証言により、自殺と断定か。自宅に遺書らしきものを発見。、、、〉

〈砦ヶ丘A町のマンションの一室で女性が密室の中で死亡しているのを発見。現場の状況から、自殺に見られる。服毒自殺を図ったよう。また、現場からは遺書が見つかっており、、。〉

というような内容だった。

───






外では明るい声が聞こえている。

「ほら!みんな笑って!夜雨可愛いよ!」

葉月がカメラを向けて言った。

「うるさいな!早く撮って!」

夜雨が顔を赤くした。

「よいちゃん照れてる!」

「ね、かわいい!」

顔を見合わせる月雨と光雨。

「もう、、葉月、早く取ってあげなさい。」

後ろから影が諭す。

「ハイ!いくよ!はいチーズ!」

カシャッという音が響いた。

◇◇◇

たくさんの写真と共にその写真は飾られた。

その隣には星夜、月光と一緒にいる夜雨、月雨、光雨の写真が飾られていた。




                     ───了

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