「すぐではないから、また話し合おう。次は向こうの商店街を案内してくれる?」
「……はい」
 小さな橋を渡り、川の向こう側へ。
 簡単に商店街を案内し屋敷に戻ると、そのまま宗一郎は隣街にも挨拶に行くと去っていった。

 宗一郎を見送った水緒は、女中に桶と雑巾を借り、竜神様の祠へ戻った。
 祖母が昔掃除をしていた姿を思い出しながら、祠の汚れを拭き取っていく。

 長年の汚れは1日では落ちず、水緒は毎日女学校が終わったあと祠の掃除に向かい、少しずつ綺麗にしていった。

   ◇

 掃除を始めて1ヶ月。
 棚を水拭きし、周りの草を取り、小さな花を飾るうちに、なぜか竜ノ川が綺麗になってきたような気がする。
 ただの妄想だけど。

 たまたま上流で雨が降らない日が続いたのだろうとわかっているけれど、キラキラ輝く竜ノ川を久しぶりに見た気がした水緒は、雑巾を桶に入れたあと、ぼんやりと川を見つめた。

「……あの男はダメだ」
「えっ?」
 低い男性の声に驚いた水緒が振り返ると、すぐ後ろに和装の男性が立っていた。
 だが、髪の色は銀色で、目は青く、この辺りで見かける容姿ではない。
 異人さん?
 こんなところに?

「この祠は竜穴。だが、穢れのせいで悪い者が来てしまった」
「……竜穴?」
 とは何だろうか?
 
 男性の銀の長い髪がサラサラと風に揺れ、水のような青い眼は吸い込まれそうだ。
 こんな容姿なのに、和装が似合っていると思ってしまうのはなぜなのだろうか?

「綺麗にしてくれてありがとう」
 青い眼を細めて優しく微笑む男性は、この世のものとは思えないほど美しく、思わず見惚れる。

 ……あれ?
 この感じ、前にもどこかで……?
 こんなに綺麗な男性に会ったら、忘れないと思うけれど。

 和装?
 銀色の……。
 思い出せそうで思い出せないもどかしさが水緒を襲う。
 
 水緒は手を口元にあてながら、しばらく悩んだ。