翌日。放課後、部活のため音楽室に行くと、クラリネットを持った高森が女子の先輩たちに囲まれていた。
「高森くん、それ新しくしたのー? かわいいー」
「ちょっ、触んないでくださいよ先輩。かわいくないですから!」
焦って言い返す高森に先輩たちは「かわいいー」とまた繰り返す。
高森はいつも女子からかわいがられている。
いや、からかわれていると言った方がいいのかもしれない。
俺は自分の楽器を準備してから高森たちの方へ近づいた。
「行くぞ高森」
「宮野先輩っ」
助かった!というように、ぱあっと笑顔になって高森がついてくる。
先輩たちは俺の存在に今気付いたらしく「あれ来てたんだ宮野」と言うのが聞こえた。
どこにでもいそうな俺みたいな奴には先輩たちも興味なんてないんだろう。
顔はそこそこ悪くないレベルで、髪型は特に癖もない黒髪。身長も平均より少しだけ上。
女子からあまり声も掛けられない。
俺に彼女がいたのだってきっと先輩たちにとっては信じられないことで、だから噂になっていたのかもれない。
(美紀のことはさっさと忘れよう)
なんて元彼女のことを考えていると、ついでみたいに昨日の高森の言葉が蘇ってきた。
後ろからついてくる高森はいつもと変わらぬ態度で「いいお天気ですね」などとのんびり言っている。
よかった。
昨日のあれはやっぱりただの聞き間違いだったのかもしれない。
俺はほっとしながらいつもの練習場所、一階の廊下で高森とパート練習を始めた。
吹奏楽部では楽器ごとに練習場所が決まっている。
ここは音楽室から一番遠く、不人気な場所だから、俺たち以外の人間はいない。
休憩中、高森がクラリネットを片手に話しかけてくる。
「先輩。これ見てください」
「なに?」
「先輩とお揃いにしちゃいました」
えへへ、と高森が見せてきたのはクラリネットの裏側だった。そこには演奏中に親指をかけて使うための小さい金具がついている。
高森が俺とお揃いにしたのはその金具につけるゴム製のカバーだった。楽器屋で売っているもので、色は黒やピンクなど数種類ある。
高森は昨日までは水色のカバーを使っていた。それが今は俺と同じ緑色になっている。
「実はずっと前からお揃いにしたかったんです。でも先輩に彼女がいるから我慢してて……」
「そんなもんいつでもお揃いにすればいいだろ」
言ってる意味がわからず呆れれば、高森は急に俺の腕に自身の腕を絡ませ呟いた。
「先輩大好き」
は?
頭が疑問でいっぱいになり、俺は高森の手から逃れて立ち上がる。
「お前、やっぱ昨日のあれそういうことか! 高森は俺が好きなのか!?」
「はい。ていうかいつも落ち着いてる先輩でもそんなに驚くことがあるんですね」
俺も自分でびっくりする。
こんなリアクション取れたのかと。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「え? 何? なんで? なんで高森が俺を好きなの?」
俺は焦りに焦って後ろの自分の椅子にぶつかった。
「大丈夫ですか?」
心配そうな顔で俺を椅子に座らせてから、高森は語り始めた。
「体験入部の時、女の子に囲まれてる俺を連れ出して俺の後輩にならない?って言ってくれたじゃないですか。あの時の笑顔にきゅんとしちゃいました」
確かにそうした覚えはある。
しかし、俺はただ男子の後輩ができたらいいなと思っただけだし、きゅんとされるような笑顔を向けた覚えはない。
男に告白されるなんて初めてで、しかもよく知った後輩である事実に俺はただただ困惑する。
高森は顔を赤らめつつ言った。
「すみません先輩。でも俺、先輩が彼女と別れたって聞いてこのチャンスは逃してはならないと思って」
「逃せよそこは」
「ごめんなさい。できません」
高森がいつものにこやかさを引っ込め、じっと見つめてくる。
(そんなまっすぐ見られてもきゅんとかしないから)
「高森くん、それ新しくしたのー? かわいいー」
「ちょっ、触んないでくださいよ先輩。かわいくないですから!」
焦って言い返す高森に先輩たちは「かわいいー」とまた繰り返す。
高森はいつも女子からかわいがられている。
いや、からかわれていると言った方がいいのかもしれない。
俺は自分の楽器を準備してから高森たちの方へ近づいた。
「行くぞ高森」
「宮野先輩っ」
助かった!というように、ぱあっと笑顔になって高森がついてくる。
先輩たちは俺の存在に今気付いたらしく「あれ来てたんだ宮野」と言うのが聞こえた。
どこにでもいそうな俺みたいな奴には先輩たちも興味なんてないんだろう。
顔はそこそこ悪くないレベルで、髪型は特に癖もない黒髪。身長も平均より少しだけ上。
女子からあまり声も掛けられない。
俺に彼女がいたのだってきっと先輩たちにとっては信じられないことで、だから噂になっていたのかもれない。
(美紀のことはさっさと忘れよう)
なんて元彼女のことを考えていると、ついでみたいに昨日の高森の言葉が蘇ってきた。
後ろからついてくる高森はいつもと変わらぬ態度で「いいお天気ですね」などとのんびり言っている。
よかった。
昨日のあれはやっぱりただの聞き間違いだったのかもしれない。
俺はほっとしながらいつもの練習場所、一階の廊下で高森とパート練習を始めた。
吹奏楽部では楽器ごとに練習場所が決まっている。
ここは音楽室から一番遠く、不人気な場所だから、俺たち以外の人間はいない。
休憩中、高森がクラリネットを片手に話しかけてくる。
「先輩。これ見てください」
「なに?」
「先輩とお揃いにしちゃいました」
えへへ、と高森が見せてきたのはクラリネットの裏側だった。そこには演奏中に親指をかけて使うための小さい金具がついている。
高森が俺とお揃いにしたのはその金具につけるゴム製のカバーだった。楽器屋で売っているもので、色は黒やピンクなど数種類ある。
高森は昨日までは水色のカバーを使っていた。それが今は俺と同じ緑色になっている。
「実はずっと前からお揃いにしたかったんです。でも先輩に彼女がいるから我慢してて……」
「そんなもんいつでもお揃いにすればいいだろ」
言ってる意味がわからず呆れれば、高森は急に俺の腕に自身の腕を絡ませ呟いた。
「先輩大好き」
は?
頭が疑問でいっぱいになり、俺は高森の手から逃れて立ち上がる。
「お前、やっぱ昨日のあれそういうことか! 高森は俺が好きなのか!?」
「はい。ていうかいつも落ち着いてる先輩でもそんなに驚くことがあるんですね」
俺も自分でびっくりする。
こんなリアクション取れたのかと。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「え? 何? なんで? なんで高森が俺を好きなの?」
俺は焦りに焦って後ろの自分の椅子にぶつかった。
「大丈夫ですか?」
心配そうな顔で俺を椅子に座らせてから、高森は語り始めた。
「体験入部の時、女の子に囲まれてる俺を連れ出して俺の後輩にならない?って言ってくれたじゃないですか。あの時の笑顔にきゅんとしちゃいました」
確かにそうした覚えはある。
しかし、俺はただ男子の後輩ができたらいいなと思っただけだし、きゅんとされるような笑顔を向けた覚えはない。
男に告白されるなんて初めてで、しかもよく知った後輩である事実に俺はただただ困惑する。
高森は顔を赤らめつつ言った。
「すみません先輩。でも俺、先輩が彼女と別れたって聞いてこのチャンスは逃してはならないと思って」
「逃せよそこは」
「ごめんなさい。できません」
高森がいつものにこやかさを引っ込め、じっと見つめてくる。
(そんなまっすぐ見られてもきゅんとかしないから)