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 数字がゾロ目になっただけ。月末から月初めに切り替わっただけ。
 気合を入れるのは初めの一回だけで、一年のうち、残り十一回はぬるっと過ごすだろうに。十二月と一月のはざまだけ、どうして盛大に祝われるんだろう。
「あと一分だって!」
「並んで並んで!」
 冷めた感性でいる佐古田とは対照的な弟妹たち。
 わざわざテレビ画面の前に集結して、今年が終わるまでの秒数を数えている。違う部屋にいた母親とリビングの床で寝っ転がっていた父親が強引に呼ばれ、
「兄ちゃんも!」
「俺はいいよ」
「いいから! ほら、早く〜」
 こたつの中で胡座をかいていた佐古田も脇から抱えられて招集される。
「おめでとーう!」
「ハッピーニューイヤー!」
 新年の瞬間は強制的にジャンプをさせられた。年を跨ぐという意味だ。
 きゃあきゃあと騒ぐ弟妹を微笑ましく思いながら、すぐさまこたつに戻る。
 子供の頃は夜更かしを目的に楽しみにしていた年越しの瞬間だけど、十七歳にもなればいつもと変わらない夜中だ。
 ……さすがに普段は、火薬の匂いなんてしないけれど。
 どこから引っ張り出してきたのか、それともわざわざ買ったのか。弟妹たちは立て続けに何発もクラッカーを鳴らし、飛翔してフローリングに散ったテープを片付けろと母親に叱られている。
 苦笑いで佐古田はその様子を見守り、こっちに飛んできたくるくるの一本を渡してやった。
 そうして年が明けて一分ほどが過ぎると、スマホにメッセージが届き始める。
 中学時代の友達。いとこのお姉ちゃん。真鍋。
 来た全てに一通りの返事を送り終え、友達リストに画面を戻すと、佐古田は慣れた指の動きでトークルームを開いた。最近までは一週間に何回かやり取りしていた相手。
 新年に乗じてなら、いいだろうか。
『あけましておめでとう』
『今年も──』
 よろしく。そう打ちかけて、考える。
 自分が送っていい文言だろうか。
 勉強会はこれでもう終わり、今までありがとう。
 きっぱり言ったのは自分なくせに。
 でもこのタイミングを逃したら、岩崎との縁はぷつりと切れてしまう気がする。
 それは、秀太くんと付き合っているときの心境にも似ていた。
 時間の融通が効く自分が会いに行く。そうするほうが楽でいい。
 あのころ秀太くんにはそう言ったけれど、言葉にはこびる正体は不安だった。
 会いに行く機会を作らないと、相手にされなくなる気がしていた。
 岩崎へは『今年も』の言葉を消して、新年の挨拶だけを送信した。
 ディスプレイをテーブル面に向けてスマホを置く。
 だけど、いつ返信が来るかと気になって頻繁に裏返してしまう。
 反応があったのは三十分後で、
『あけましておめでとう』
 と、一言一句そのままで返ってきた。山びこ?
 まぁ内容は何でもいい。無難だったし。既読無視は回避。ここからは佐古田のターンだ。
『この前の期末考査、いい点数取れたよ』
 送信してすぐにスマホを伏せた。
 簡潔だけど、絶対に返事は来るだろう文章。これで無視はない。
 そんな佐古田の予想通りに、数分後、またもスマホは明るい音を立てる。パスコードをすばやく解除する。
『おめでとう』
 ……だけ?
 思っていたら、白い吹き出しと連続してスタンプが送られてきた。
 拍手をするうさぎのキャラクター。
 終わり?
 既読はついてしまっているが、テキストのやりとりに時間制限はないので佐古田はしばらくスマホを置いた。
 だけど来ない。メッセージがない。
 終止符代わりのスタンプだったのだ。岩崎のほうから会話を切った。
「……なんだよ」
 はしゃぐ弟妹の声にかき消される音量で佐古田は文句を垂れた。
 しかしそれは見当違いなもの。自分でもわかっているから小声になった。