わたし入野奈子と森北森北梅奈は小学校から高校まで共に過ごした友達で今年三十歳になった。そんなわたし達は親友というほどではなかったのだけど、現在ルームシェアをしている。
その経緯は。
派遣社員としてコールセンター勤務をしていた会社を辞めることになったわたしは安い賃貸に引っ越そうと不動産屋巡りをしていた。
そんなある日、数年会っていなかった梅奈と偶然再会した。
良い物件探しをネットでも検索したけれど、なかなか理想に合う部屋が見つからなかった。なので、不動産屋巡りをすることにした。
「う~ん、やっぱりペット可物件は高いな~」と呟きながら、不動産屋の店先に貼られていた賃貸物件をじっと眺めていた。
その時。
「わっ、奈子ちゃん」と後ろから声をかけられた。
誰だろう?
びっくりして振り向くと梅奈がぱっと向日葵が咲いたような笑顔を浮かべ立っていた。
「あ、梅奈ちゃん久しぶり」
わたしは、びっくりして目を大きく見開いた。
不動産屋の前で思い出話に花を咲かせるわたし達。その後近況報告と今、この不動産屋の前に居る理由をお互いに話した。
「わたし女優の卵なんだ」
梅奈はえへへと笑い頭をぽりぽり掻いた。その表情は照れ臭そうに見えたけれど、どこか寂しげにも見えた。
「わっ、凄いね。夢を叶えたんだね」
わたしは向日葵の花のように輝く梅奈がちょっと羨ましく感じた。
だって、わたしはまだ夢なんて一つも叶っていないのだから。三十歳になったというのに……。
「奈子ちゃんどうしたの?」
うつ向くわたしの顔を梅奈が心配そうに覗き込む。
「ううん、何でもないよ。ただ、梅奈ちゃんは高校時代に叶えたいって言っていた夢に向かって突き進んでいるんだな。なんだかちょっと羨ましいな~って思ったの。わたしなんて派遣社員でそれも辞めちゃって……」
素直にそう答えたわたしに梅奈は。
「わたし夢は諦めていないし絶対に叶えたいって思っているけどね。女優の卵と言っても死体役とか名もない背景のようなちょい役とかなんだよ……」
梅奈はあははと笑い、やっぱりその表情はちょっと悲しそうで悔しそうでもあった。
そんな梅奈とわたしは部屋を探していた理由も一致した。
タマにゃんと暮らせるペット可で安い物件を探していたわたしと、最近家賃が値上がりし女優の卵の梅奈もまた安い物件を探していたのだ。それと、お互いに猫好きだった。
そんなこんなでわたし達のルームシェア生活が始まりそろそろ一年が経つ。