目を瞑って間も無く。
 教室内は静寂に包まれた。
 ほんの数秒だったが、皆んな好き勝手喋っていたのに、計ったかのようにシーンとなったのだ。
 
(……ん、何だ?)

 不思議に思い瞼を開けると、「……イケメンだ」という小さな声が聞こえてきた。

(……イケメン?……誰のこと?)

 このまま寝て休むか好奇心のままに顔を上げようか。
 2つでと迷っていると、目の前から椅子を引く音がした。

「あれ、寝てる?」

 その声に反応するように顔を上げると、視界はぼやけていた。
 腕に目を押し付ける形で伏せていたから眼球に圧力がかかっていたことが原因で霞んでしまっている。

「起きてたんだ」

 目を何度かパチパチしていると、次第に視界ははっきりと映り始める。
 男は鞄を置くとじっとこちらを見つめてきた。

「おはよう」

「……おはよう」

 彼の声は心地良い低音だった。

 (イケボだ……)

 ついそう感じるくらい良い声だった。

「俺、ここの席。よろしくな」

「……よろしく」

 声の持ち主は体をこちらに向けると椅子を跨ぐように座った。
 結斗は視線が一気に近くなった彼の顔を見た瞬間、息を呑んだ。

(かっこいい……)

 思わずじっと見つめていると、彼は照れたように頬を掻いた。

「そんなに見られると照れるんだけど」

「あっ、ごめん!」

 結斗は顔を覗き込むような態勢になってたことに気付くと、慌てて体を離した。
 その拍子に膝を思いっきり打ちつけた。

「っ!」

 焦って行動したため、強めに机の裏に打った場所は地味に痛い。 
 打ちつけた音を聞いた彼は

「大丈夫か?」
 
と少し焦った声で体を乗り出してきた。

 結斗が「大丈夫」と笑って返すと、彼はホッとしたように息をついて姿勢を戻した。
結斗は恥かしくて話題を逸らそうと思い、唐突に自己紹介をしてしまった。

「あの、俺、結斗って言うんだ」
 
「結斗な。俺は斗葵(とき)。よろしく」

「うん。よろしく」

 斗葵から差し出された手。
 その手に重ねるように手を差し出すと、掌が触れた瞬間にギュッと握り締められた。

(……嬉しい。高校の初めての友達だ)