結斗は携帯の画面に目を向けた。
 結斗が先ほど見ていたショート動画のいいね件数は30万を超えており、ユーザープロフィールから他のショート動画にとんでみると10万以上のいいねがついているものばかりだった。
 これだけでも同性同士の恋愛物語を受け入れてくれる人々も多いと窺える。
 実際に結斗の周りにもいる。
 それは結斗の家族だ。
 母親がBLが好きな女性"腐女子"なので、たまに家族に買った単行本をおすすめしてたりする。
 だから、結斗だけではなく、父親や姉たちもBL漫画を読んだことがある。
 その影響もあってか、結斗がゲイであることをカミングアウトしても皆すんなりと受け入れてくれた。

 (俺は、恵まれてるな……)

 結斗はつくづくそう思う。
 親が同性愛反対派ではなくて良かった。

 偏見を持つ親は当然いると思う。
 むしろこれまでの日本の背景を考えるとそれが当たり前なんだっていうことは分かる。
 ……でも、実の親から否定されたらどれほど傷付くのだろうか。
 ネットの情報を見ているだけで結斗の胸は痛くなって、息がしづらくなった。

 "男と付き合うなら勘当する"
 "精神科に連れて行かれた"

 調べるとカミングアウトした際に親から縁を切る言葉を言われた人、病気扱いされた人の意見がいくつもあった。

 好きな人に恋をしてはいけない。
 好きになっただけで異常者扱いされてしまう。
 それはなんと悲しくて、辛いのだろうか。
 でも、こう感じるのも"世間に許されない変わってる"が、"世間に許される変わってる"に変化してるから考えられることなのだろう。

 結斗は一つ溜息をつくと、首を左右に振った。

 (辛気臭いことを考えるのはやめよう)

 結斗は携帯の画面を閉じた。
 電車が駅に停車し、隣に誰かが座りに向かってくるのが見えたからだ。
 隣にスーツを着たサラリーマンが座る。
 その際に左手薬指に輝く指輪が目に入った時、ふと考えてしまった。

 (俺も……互いに生涯を共にしたいと思える相手ができるのだろうか)

 結斗は乗車してから耳につけているワイヤレスイヤホンで聴く音楽を操作すると、窓辺に寄りかかり再び外の風景を眺めた。