「結斗が大丈夫なら、待っててくれると嬉しい」
「あっ……うん」
その言葉に安堵した結斗は、ゆっくりと頷いた。
そして、斗葵に視線を戻す。
「俺、待ってるね」
「ん、ありがとう」
斗葵は笑うと、いつもよりも優しく頭を撫でてくれた。
「あれ?」
斗葵の背後から現れた女の子は不思議そうに首を傾げながら結斗の視界に映った。
急に覗き込んで来るように顔を近付けてきたので、驚いてビクリッと体が跳ねる。
「あ、ごめん。驚かせちゃったね」
女の子は慌てて離れると両手を合わせて謝る。
そして、斗葵の方に顔を向けた。
「綺麗な子だね。斗葵の友達?」
その言葉にズキッと胸が痛んだ。
(友達……)
思わず俯くと、触れていた斗葵の手が安心させるように撫でてきた。
そして、背中に隠すように斗葵が前に立つ。
「ちょっと、何?」
「何が?」
「何で隠すの?」
「お前、グイグイいくタイプじゃん。圧力があって怖いんだよ」
「えー、そんなことないよ!」
「ある。結斗は人見知りなんだから、もっと大人しくしてろ」
女の子は少し驚いたように目を見開くと、じっと結斗を見つめてきた。
(何?)
結斗は気まずくて斗葵の背中に目を向ける。
自分よりも少し背の高い彼は、すごく頼もしい。
斗葵を見てるだけで、あれだけ不安になっていた気持ちが落ち着いていくから不思議だ。
「あれ?」
斗葵の驚いた声が聞こえて、視線の先を追うように見ると、片手を振って駆け寄ってくる男がいた。
「よっ!斗葵、久しぶり」
「トモ、久しぶり」
2人はハイタッチすると、隣にいる女の子と斗葵を交互に見た。
「彼女?」
「違う」
(彼女……)
その言葉を聞いた瞬間、思わず息を止めてしまった。
(彼女、か……)
斗葵は即座に否定していたが、結斗は時間が止まったような感覚がした。
ショックだった。
斗葵と女の子が恋人に見えることに。
今は結斗の方が斗葵と仲がいい。
でも、自分と斗葵は友達にしか見えない。
同性同士。
決して恋人に間違えられることのない関係なんだと改めて認識した途端、何だか泣きたくなった。
そして、結斗は気付いてしまった。
(ああ、そっか……俺、斗葵が好きなんだ)
そう実感した途端、自分が途方もないところにいる気分になった。
だって、また異性愛者である"ノンケ"を好きになってしまったから。
実りにくい恋をしてしまったのだと知ってしまったから。