それにしても、

 「2人、意気ぴったりだね」

 「こいつ、あー、春利(はると)は俺の幼馴染なんだ」

 光希は隣の彼を指さす。

 「幼馴染……」

 通りで仲がいいわけだ。

 「光希とは幼稚園からの仲なんだ。しかも、高校までずっと一緒」

 「えっ、凄い!」

 「だろー」

 光希は自慢するように胸を張る。
 結斗は話し始めた2人の会話に相打ちを打ちながら耳を傾けた。

 2人は信頼関係をしっかり築いてきたのだろう。
 10年も一緒に過ごしてきたこともあって、お互いのことを分かり合っていることがひしひしと伝わってくる。
 関わりが短い結斗でも分かるのだ。

 結斗は2人の関係を羨ましく思った。
 幼稚園の3年間、小学校の6年間、中学の3年間。
 そして、これから過ごす高校3年間。
 そんな長い時間を2人は一緒に過ごすのだ。
 結斗はそれほど長く関わり続けた人はいないので、2人の関係を羨ましく思った。

 「そういえば自己紹介してなかった」

 春利は片手を差し出すと、口を開いた。

 「初めまして。伊那(いな)春利(はると)です。よろしく」

 「初めまして。清水結斗です。よろしく」

 春利と握手すると、光希も真似するように片手を差し出してきたので彼とも握手を交わす。
 光希の手は豆ができていた。
 自分の手の感触と違うことに気付いて、じっと見てたからだろうか。
 光希は「ああ」と短い言葉を発すると、手のひらを上に向けた。

 「これ、ソフトテニスでできたんだ」

 「ソフトテニス?」

 「うん。中学はやってたから。やめたけどまだ残ってるんだ」

 「そうなんだ」

 結斗は自身のまっさらな手に触れた。
 当たり前だが、結斗にはマメがなくスベスベしている。

 「とっ、あっ……」

 (斗葵はどうなんだろう)

 そう思って声をかけようとしたが、今日はいないんだってことを思い出す。

 「斗葵を呼ぼうとした?」

 春利に聞かれて、結斗は机の下で忙しなく手を動かした。

 「うん。いないんだった」

 いない人の名前を呼ぼうとしたことが恥ずかしくて、視線を下げると光希と春利は「俺もよくやるよ」と慰めるように話しかけてくれた。
 
 「なあ、良かったら今日一緒に食わん?」

 「いいの?」

 「おお、結斗ともっと仲良くなれたら嬉しいんだけど」

 その言葉に結斗はじーんと心が温かくなった。
 2人が気を遣ってくれたのは分かってたけど、こんな風に言ってくれるのが嬉しくて沈んでいた気持ちがじわじわと回復していく。

 「食べたい。仲良くして欲しい」

 結斗が彼らの言葉に甘えるように返答すると、2人は快く笑ってくれた。
 思えばこの時が初めて、斗葵がいないときに友達ができたかもしれない。