「よっ!」

 「よー」

 振り返るとそこには光希とよく一緒にいる友達が歩いてきてた。
 彼と視線が合うと結斗は咄嗟に口を開いた。
 タメ口で話していいのか分からなくてとってつけたように語尾をつけた挨拶をしてしまう。

 「おはよう、ございます」

 立ち止まった彼は光希に視線を向けると、再び結斗を見た。

 「おはよう。何で敬語なの?」
 
 光希と同じことを聞かれる。
 違うのはその問いの答えを結斗ではなく、光希が答えたことだ。

 「緊張してるからだって」

 「なるほどね。……斗葵はまだ来てないの?」

 彼は見渡すように教室を見る。
 いつも一緒にいるからだろうか。
 まだ1人でいることを不思議に思ったようだ。

 「今日は休み。試合なんだって」

 「ああ。だからか」

 「だから?」

 何がだからなんだろうか?
 結斗が目を瞬かせると、彼は光希の後ろの席に座った。

 「なんか寂しそうだから」

 「寂しそう?」

 「うん。斗葵がいなくて寂しそう」

 結斗はその言葉がストンと胸に落ちてきた。
 確かに、今日は朝から学校に行くのが乗り気ではなかった。
 理由が分からなかったが、彼の言葉でようやく気付くことができた。

 (斗葵に会えないから今日は憂鬱なんだ……)

 毎年、この時期は気分が滅入っているはずだった。
 環境が一気に変わるから、内気で人見知りな結斗は特に苦手だった。
 ストレスが溜まって学校に行きたくないと思うほどに。
 それが今年は感じていないのだ。
 なんなら、早く平日が来いとすら願っていることもある。

 (斗葵に会えるからだったんだ。だから、学校に行くのも楽しみだったんだ……)
 結斗は2人を見上げた。

 まさか話したこともないクラスメイトに気持ちを見破られるとは思ってもみなかった。
 よく周りからは"感情が表情に出るから分かりやすい"とは言われていたが。

 「俺って、そんなに落ち込んでる?」

 「「落ち込んでる」」

 (……そんなに出てるんだ)

 2人の意気のあった言葉に結斗は口をつぐんだ。