入学式を終えると、再び1ー5の教室に戻ってきた。
 名簿順の席に座るとHR(ホームルーム)が始まり、改めて担任の山ちゃん先生の自己紹介が行われる。
 配られた自己紹介の資料を仕舞うと、次は生徒側が一人一人自己紹介をすることになった。

「自己紹介は名前、出身中学校。あとは特技や趣味、入ろうとしている部活とか言ってくれ。最後にクラスに一言も。他に言いたいことがあればそれもよろしく」

 山ちゃん先生は黒板に自己紹介内容を書くと、「名簿番号1番から始めてくれ」と指示を出した。
 その指示に従うように1番前の席の人が立ちあがり、順番に自己紹介が始まる。

 自己紹介は落ち着いた声で話す人もいれば、声を震わせて話す人もいた。
 結斗は後者の人数の方が多いことに安心した。
 声が上ずる人がいると、仲間だと親近感が覚えたから。
 結斗は人前で話すことが苦手だ。
 特に初対面の人から注目されると、緊張して声が震えてしまう。
 だから、こういう場面も好きじゃない。
 着々と近付いてくる順番に、結斗は唇を噛み締めた。
 自分の話す内容を繰り返し、心の中で復唱する。
 簡単で短い内容だ。
 何巡しているうちに、斗葵が立ち上がった。

「初めまして。○○中出身の紫川(しがわ)斗葵(とき)です。陸上部に入ってます。これから、よろしくお願いします」

 斗葵が座ると同時に結斗は立ち上がった。

「…は、初めまして。××中出身の清水(しみず)結斗(ゆいと)です。……趣味は読書をすること。これからよろしくお願いします」

 お辞儀をして席に座ると、一呼吸置いてからホッと息をついた。
 始めだけ声は震えてしまったが、他は普通に話せた。
 中学の頃はほとんど声が震えてしまったから、恥ずかしくて仕方がなかった。
 あの頃よりもマシな挨拶ができたことに、結斗は少しは人見知りやあがり症がマシになったのかなと感じた。
 肩の力を抜いた結斗は、クラスメイトたちの自己紹介を少しでも覚えようと耳を傾けた。

 自己紹介が終わると、授業時間割や教科書販売の確認等の最低限の学校説明を受けた。
 確認事項が多く、重要な点は山ちゃん先生から配られた資料にマーカーを引いていく。
 
「説明はこんなもんかな。何か質問があったりするか?」

 山ちゃん先生は「ある人は手を挙げろ」と周囲を見渡す。
 誰もいないことを確認すると、山ちゃん先生は背後の時計で時間を確認する。

「まあ、少し早いけど今日はこれで終わりだ。初日で疲れたと思うから、帰ったらゆっくり休め」

 山ちゃん先生の声であっけなく解散となった教室。
 ちらほらと教室から出て行く人もおれば、まだ話し足りないのか残る人もいた。
 結斗はある程度教室から人が出ていくと、鞄に配布された資料をしまった。