恋人なのはこの場だけ

 それでも短く息を吸い込んで、彼と向き合う。

「柳君。あの、姫ちゃんのことなんだけど、今日はバイトで」

 身体の前でアワアワと手を動かしながらも、なんとか授業中に考えた言葉を紡ぐ。
 柳君はそんな僕に怒りも呆れもしない。それどころか表情を和らげていく。

「知ってる。一緒に紫のリボンをゲットしような」
「本当に僕と一緒で大丈夫なの? 食べにいくパフェは少し特別なやつだから柳君に迷惑かけるかもしれないし……。今さらだけど断ってくれても大丈夫だからね!」

『断ってくれても大丈夫』の部分は特に力を込める。思わず拳もグッと固めてしまった。

 誰が聴いているかも分からない放課後の教室で『恋人』なんてワードを出せば、確実に柳君の迷惑になる。

 だからこんなにフワッとした確認しかできないのだが、逃げ道もあるのだと提示はできた。

 学校を出れば知っている人の目も減るが、店に入ったところを目撃される確率もゼロではない。

 それに知り合いの目に触れずとも、例のパフェを机に置いている間、周りから『あの二人は恋人関係にあるのだ』と思われるのである。

 たとえフリであっても、一年半も柳君に声をかけられなかった僕では不釣り合いだ。
 実際の恋人になるわけではないのだから気にしすぎかもしれないが、改めて了承をとっておきたい。

 もし断られたら、それを理由に姫ちゃんに来てもらえばいいと考えている。僕と姫ちゃんでは確実に恋人には見えないが、店員さんも深くは突っ込むまい。

 姫ちゃんが自分は絶対に行きたくないと言ったら、その時はどうしようもない。元々のリクエスト通り、クリスマスコスメで妥協してもらうだけだ。さすがに友達に恋人のフリまでは頼めないのだから。