恋人なのはこの場だけ

「じゃ、よろしくね~」
 終礼が終わると同時に、姫ちゃんはスクールバッグを肩にかけて走り出す。
 残された僕は、柳君に急用が入りますように……と祈りながら机に突っ伏す。すると頭の上から加藤君の声が降り注ぐ。

「虎太郎。腹、大丈夫か? 授業中ずっと辛そうだったけど」
「あ、うん。大丈夫。心配してくれてありがとう」

 顔を上げると、心配そうな表情を浮かべる加藤君と目が合った。
 年の離れた妹がいる彼は小さな変化も見落とさない気遣い屋なのだ。優しさを受け取りつつも、迷惑をかけることはできない。

 ハハハと力ない笑みを浮かべる。すると彼の眉間に皺がぎゅぎゅっと寄っていく。

「あんまり無理すんなよ? 駅まででよければ俺、送っていけるし」
「虎太郎、遅くなってごめん!」

 加藤君の申し出と重なって僕を呼ぶ声は、記憶に残っている声よりもずっと低く、大人びたものだった。

「終礼押しちゃって……ごめん」

 首を掻きながら、迷うことなく僕の机までやってきたのは柳君。
 小さい頃から変わらないと言われることは多いが、それでも覚えていてくれているとは思わなかった。少し固まってしまう。