恋人なのはこの場だけ

「なら他の部員より時間に余裕があるよな?」
「うん。だから残りは時間がかかりそうなところを希望しようかなって思ってて」
「じゃあ男子水泳部撮りに来ないか? 俺の泳ぐとこ見に来てよ」
「希望者がいなかったらになるけどいいかな?」

 即答したい気持ちはある。
 だがすでに柔道部の担当が確定していることもあり、第三希望になってしまうのだ。ごめんね、と頭を下げる。けれど隼人君は機嫌が悪くなるどころか、ふわりと笑った。

「それでいいよ。俺さ、小三の時より早く泳げるようになったんだ」
「あの時もすごく早かったもんね。隼人君が転校した後も二十五mクロールの記録は誰にも抜かされなかったんだよ」

 転校直前に新記録を塗り替えて去っていった。あの時の姿と水飛沫は今も鮮明に思い出せる。あんな風に豪快に泳いでみたいと思ったものだ。

「そういえば虎太郎はビート板なしで二十五m泳げるようになったのか?」
「六年生になってなんとか……。でもあんまり得意じゃなくて、水泳が選択制のこの学校を選んだんだ」
「そうなのか? てっきり鬼瓦が柔道スカウトで入学が決まってたから、ここを受験したんだとばかり……」

 隼人君は目を丸くする。
 ちなみに彼以外も似たような反応だった。