恋人なのはこの場だけ

「写真撮った時の姫ちゃん、すっごい喜んでたから。思い出して嬉しくなっちゃったんじゃないかな」

 ちなみにその時の姫ちゃんが手にしたのは、推しと三十秒間会話ができる権利。
 ファンクラブ会員限定ウェブイベントの後に行われるらしく、メンバーごとに当選者が百人ずつと決まっていた。ファンクラブに加入するほどのファン達が一気に押し寄せるとあって、倍率は通常のライブ以上。

 その枠の一つを見事に勝ち取ったのである。
 姫ちゃんの部屋に設置された祭壇には、当選メールを印刷した紙がラミネートされて飾られている。隣には僕が撮った写真。今後もこのご利益にあやかると言っていたから、紫の幸運リボンも一緒に飾るつもりなのだろう。

 いい写真だと言われたら、あの日のことを思い出してニヤけても不思議ではない。

「いや、あのドヤ顔は絶対俺へのマウントだった」
「隼人君もあのグループ好きなの?」
「俺が好きなのは虎太郎だよ。俺も鬼瓦と同じくらい、とまではいかなくとも虎太郎の日常になりたい」

 真剣な眼差しを向けられ、驚いてしまう。

「ど、どうしたの急に」
「なぁ、俺のことも鬼瓦みたいに撮ってくれないか。今だけは俺は虎太郎の彼氏なんだから」

 手を伸ばされ、指を絡められる。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。

 恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。心臓もバクバクと騒がしくて、こんなにうるさいと指先から緊張が伝わってしまうのではないかと怖いくらい。

 だが手を引こうにも、ガッチリと掴まれていて解けない。
 なんとしても恋人のフリを続けようという強い意志を感じる。

「撮ってくれるまで離さないから」

 整った顔でニコリと笑う隼人君。僕の気持ちなんてお構いなしなのだ。そんな少し強引なところもドキッとしてしまう。