恋人なのはこの場だけ

「かしこまりました」
 店員さんの姿が見えなくなってから、テーブルの真ん中に顔を寄せる。

 話があると察して、彼の顔も近づいてくる。同時に周りの視線も集まっているような気がする。彼女達から隠れるように身体を縮こませながらも、小声で疑問を投げかける。

「なんで推し活パフェじゃなくて恋人パフェにしたの? 別の色のリボンが入っている確率のある方選んだほうが紫を引く率上がるし、僕と恋人のフリなんてしなくて済んだのに……」
「あー、実は鬼瓦に恋人パフェの写真撮って送るって言っちゃったんだ」
「姫ちゃんのため、か。なら仕方ないね」

 隼人君は姫ちゃんのために僕と恋人のフリなんてしているのだ。姫ちゃんファーストになるのも当然。今日紫のリボンが出なかったら、その時は僕が一人で推し活メラメラパフェを食べに通えばいい。

「そういえば虎太郎って『推し』いるのか?」
「うん。推してる作家さんがいるよ」

 推しているといっても、既存作品全巻持っているとか、新作が出たら必ず予約する程度だが。姫ちゃんの推し活とは違い、ただのファンだと言われればそれまでだ。手紙だって何度か出した程度だが、もらった返事もサインも僕の宝物。来年に放送が決まっているドラマももちろん録画するつもりだ。

「作家か……。そういえば昔から本好きだったもんな」

 隼人君はどこかホッとしたように表情を緩める。

「隼人君は?」
「俺、そういうのよく分かんないんだよな。普通に好きとは違うのか?」
「うーん。僕もあんまり詳しいわけじゃないけど、好きと同じ意味で使っている人もいれば、誰かに勧めたいとか応援したいって気持ちで使っている人もいるって感じかな」
「そういうものか」
「あんまり難しく考えずに使っている人も多いと思うから、そんなに気にしなくていいと思うよ」

 そう話しているうちに紅茶が運ばれてきた。白がベースの陶器で、青い花が描かれている。紅茶の赤がよく映える、可愛らしい食器だ。