しばらくして、夕陽ヶ浜学園は無事に卒業式を迎えた。先輩たちの卒業に涙を流す生徒もたくさんいた。卒業式を終えたばかりの学校は、どこか寂しくて、静かだった。バレー部での集まりを終えた翔太と空は、二人で学校の屋上にいた。吹き抜ける3月の風はまだ少し肌寒いけれど、澄んでいて気持ちが良かった。


「空くん、卒業おめでとうございます。」
「ありがとう。・・・なんか意外。」
「なにがですか?」
「翔太のことだから、もっとわんわん泣いてるかと思った。」
「・・・。」
 空がいつものように悪戯に笑う。正直翔太自身も不思議だった。これまでの自分ならきっと、涙の一つや二つ流していたと思う。でも、なんだか今日は寂しいとか悲しいとか以上に、すがすがしい気持ちでいっぱいだった。

「俺が卒業するの寂しくないの?」
「寂しいです。もっと一緒にバレーやりたかったし、もっと一緒におりたかった。でも、ここで終わりやないって、分かっとるから。俺たちまだまだこれからやって思えるから、なんか・・・。」
「ははっ。なんか、かっこいいじゃん。」
「え?」
「翔太、ありがとね。お前と一緒に過ごしたこの一年、すげえ楽しかった。」
「空くん・・・。」
「お前が言うみたいに、俺たちのこれからはまだまだ続いていくけど、それでもここでお前と過ごせた時間は特別だったよ。」
「そんなん、俺もです。日下部空に出会えて、ほんまによかった。ありがとうございました。」

 翔太はまっすぐに空を見つめて言った。少しだけ照れたようにはにかんだ空は、驚くほどに綺麗だと思った。きらきらと輝いて見えた。これから先も、この人の隣に胸を張って立てるように、翔太はこれからも止まることなく進んでいく。

 二人の視線が絡み合った。翔太は空の頬に手を伸ばす。綺麗な頬に触れてから、そっと唇にキスをした。同時に吹き抜けた風は、春の訪れを告げているように感じた。

 二人の物語は、これからもずっと続いていく。