人気のない寮の廊下を、翔太と空は黙って歩いていた。春高の興奮冷めやらぬまま閉会式を終え、学校に戻ってきた頃にはもういい時間になっていた。改めて祝賀会は開かれることになり、今日は少しでも早く解散して体を休めることになった。関東近郊に住む部員は、寮には帰らず実家に帰る人もいた。だから、いつもよりも静かな廊下を、翔太と空は二人で足早に歩いていた。

 やっとの思いで部屋までたどり着き、部屋の扉を閉めた瞬間、驚くことに空から翔太に噛みつくようなキスが贈られた。あまりにも早急なことで、翔太も予想はしていたものの、受け止めることに精一杯だった。

「ん・・・そらくん・・・っん」
「しょうた・・・っ・・・」

 キスの合間に互いの名前を呼び合う。体がぐっと熱くなる。この熱は、春高の興奮なのか、それとも・・・。そんなことはどっちでもよかった。ただ今目の前にいる大好きな人が、自分を求めてくれていることが嬉しかった。

「しょうた・・・こっち。」

 そう言って空は翔太の手を引いて、自分のベッドに押し倒した。暗がりでも分かるほど赤く火照った空の頬が目の前にある。切なげに揺れる瞳は、翔太だけを写している。翔太はごくりと唾を呑んだ。

「空くん・・・おいで。」
「しょうた・・・」

 翔太は押し倒されていた体を少しだけ起こして、空の唇を塞いだ。そのまま、体を起こしきって、今度は翔太が空を押し倒す。少しだけ不安そうな空の髪を撫でる。翔太だってこんなことは初めてだから、緊張するし不安もある。でも、それ以上にもっと近くで空を感じたいと思った。

「空くん、いい?」
「うん。いいよ。・・・っン」

 触れた唇から漏れる甘い声に、頭がくらくらする。先ほどまでチームを鼓舞していた空の手は、今力なく翔太のシャツをつかんでいる。今日、空は夕陽ヶ浜学園男子バレーボール部を引退する。それでも、翔太と空の関係は終わらない。この先もきっと変わらない。

「空くん大好き。」
「うん、俺も。好き。」

 春高で全国の頂点を取った日の夜。二人の心はもっと深く繋がった。